量子力学講義録2005年第6回
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第13章
1次元の簡単なポテンシャル内の粒子
前章までで、量子力学の基本的な事項の説明をした。以下では、より具体的な問題に量子力学を 適用していく。この章では、1次元でポテンシャルの中での波動関数を考える。現実(3次元)に比べ簡単すぎてつまらないように感じるかもしれないが、1次 元に限っても量子力学にはいろいろと面白い現象がある。
13.1
箱に閉じ込められた粒子
以下では一次元の箱(長さL)に閉じ込められた質量mの粒子の運動を量子力学的に考える。まずこの粒子の持つエネルギーをシュレーディンガー方程式を解くことなしにおおざっぱに評価しよう。計算結果に現れる量は(
),L,mのみのはずである。Lは文字通り[L]の次元を、mも[M]の次元を持つ。
は時間で割る(振動数をかける)とエネルギー[ML
2
T
−2
]になるのだから、[ML
2
T
−1
]という次元を持っている。この3つの量からエネルギーの次元を持った量を作ろうとすると、[T]を含むのは
のみだから、
2
[M
2
L
4
T
−2
]に比例させなくてはいけない。後Lとmを適当にかけることで次元あわせをすると、[(
2
)/(mL
2
)]でエネルギーの次元となる。実際に計算した結果はこれの数倍程度の量になるだろう。
この結果は不確定性関係を用いた考察からも出てくる。長さLの箱に閉じ込められているということは、位置の不確定性は最大でも∆x=Lである。一方∆x ∆p > hであるから、運動量は∆p=
h
/
L
程度の不確定性を持たなくてはいけない。この場合、エネルギーも[(p
2
)/2m] = [h
2
/(2mL
2
)] 程度を持っているはずである。
[問い13-1]
ばね定数kのばねにつながれた質量mの粒子(エネルギーは[(p
2
)/2m]+
1
/
2
kx
2
と書ける)について、次元解析および不確定性関係から、最小のエネルギーの値を予想せよ。
以上の考察をした後、具体的にシュレーディンガー方程式を解いていってみよう。一次元の空間(0 ≤ x ≤ L)内に閉じ込められた、自由な粒子(V(x)=0)を考える。粒子の質量をmとする。
解くべき方程式は、
[
−
2
2m
d
2
dx
2
]
ψ(x) = Eψ(x)
である(時間的に定常な場合)。エネルギーEを与えられた定数と考えて、上の方程式を解く。このような定数係数の線形同次微分方程式の場合、解はe
λx
と置くことができる。λの値を求めるためにこの解を代入すると、
−
2
2m
λ
2
e
λx
= E e
λx
(13.1)
となるから、
−
2
2m
λ
2
= E
(13.2)
を解いて、λ = ±i[√[2mE]/
]となる。
これから、境界条件を考慮しなければ、k=[√[2mE]/
]と置いて、
ψ(x) = A e
ikx
+ B e
−ikx
(13.3)
という解が出る。
ここで波動関数に境界条件を与えよう。粒子は0 ≤ x ≤ Lに閉じ込められているとしたのだから、この範囲の外側ではψ = 0である。その外側の波動関数とつながるためにはψ(0)=ψ(L)=0でなくてはならない。これから、
A + B = 0, A e
ikL
+ B e
−ikL
=0
(13.4)
という式が出てくる。第一式よりB=−Aであるから、
A(e
ikL
− e
−ikL
) = 2Ai sinkL=0
(13.5)
Aが0では波動関数が全部0になってしまうので、sinkL=0ということになる。ゆえに、
kL = nπ(nは自然数)
(13.6)
という条件がつく。つまり、
___
√
2mE
L=
nπ
2mEL
2
2
=
n
2
π
2
E=
n
2
π
2
2
2mL
2
(13.7)
のようにエネルギーが決まった(最初の予想と比較してみよう。多少数はずれているがだいたいの値は出ている)。結局波動関数は
ψ
n
(x)=2Aisin
(
nπ
L
x
)
(13.8)
となり、nの値に応じてE
n
= [(n
2
π
2
(
)
2
)/(2mL
2
)]というエネルギーを持つことになる。エネルギーが任意の値を取れず、何か整数nを使って表せるようなとびとびの値を取る(量子化される)ことは量子力学でよく現れる現象であるが、これは束縛状態(粒子が空間の一部に集中して存在している状態)の特徴である
63
。
規格化条件∫ψ
*
ψdx=1を満たすようにAを決めよう。
∫
L
0
ψ
*
ψdx =
∫
L
0
(
−2A
*
isin
(
nπ
L
x
)
)
(
2Aisin
(
nπ
L
x
)
)
dx
=
4A
*
A
∫
L
0
sin
2
(
nπ
L
x
)
dx
(13.9)
この式の積分はsin
2
θ = [1−cos2θ/2]を使って積分することもできるが、グラフを思い浮かべれば右のようになり、「山と谷が消し合う」ということを考えればちょうど底辺L、高さ
1
/
2
の長方形の面積になることがわかって、答えは
L
/
2
になる。これから、
2A
*
AL = 1
(13.10)
よってA=[1/√[2L]]e
iθ
となる。A
*
=[1/√[2L]]e
−iθ
なので、A
*
Aという組合せの中にはθは入っていない。つまりこのθは規格化条件をつけても決まらないのである。ここでは
ψ
n
(x)=
√
2
L
sin
(
nπx
L
)
(13.11)
となるように、つまり最初ついていたiが消えるように選んでおこう(こうしなくてもまったく問題ないが)。
こうしてn=1に始まってn=∞まで続く、無限個の波動関数が得られた。各々は違う大きさのエネルギー固有値を持つ固有関数になっている。したがって、状態をエネルギーの固有値で分類した、と考えることができる。
今求めたエネルギー固有状態では、粒子の存在確率(ψ
n
*
ψ
n
)は時間によらない。つまり、粒子は動いていない。それはあたりまえで、エネルギーの固有状態であるということはψ(x,t)=φ(x)e
−iωt
という形で時間依存性e
−iωt
が空間依存性φ(x)と分離してしまっている。だから、ψ
*
(x,t) ψ(x,t)=φ
*
(x)φ(x)となって、時間がたったときに確率分布が変化しなくなっている。
それでは、古典力学における`
運動
'はどこへ行ってしまったのか。これが気になる人のために、エネルギー固有状態でない状態ではどうなるのかを考えよう。一番簡単な例として、以上で求めた波動関数のうち、もっともエネルギーの低いものから二つ(ψ
1
=√{[2/L]}sin([πx/L])と、ψ
2
=√{[2/L]}sin([2πx/L]))を考えよう。
ψ
mix
=C
1
ψ
1
+ C
2
ψ
2
(13.12)
のように二つの状態がまざった状態として作ることができる。このように二つの波が重なりあい、しかもφ
1
とφ
2
は 違うエネルギーを持っていて違う振動数で振動しているので、これらの和は状況によって左側が強め合ったり、右側が強め合ったりするのである(右の図参 照)。つまり、「いったりきたり」という現象が表れている。つまり、古典力学的な意味で動いている(期待値が振動している)状態というのは、エネルギー固 有状態でない状態(複数のエネルギー固有状態の重ね合わせ)として実現しているわけである。
このあたりの様子をアニメーションで表した
javaアプレット
。
[問い13-2]
ψ
mix
が規格化されているためのC
1
,C
2
の条件を求めよ。
[問い13-3]
時間発展を考慮して、
ψ
mix
= C
1
√
2
L
sin
(
πx
L
)
e
−[i/((
) )]E
1
t
+C
2
√
2
L
sin
(
2πx
L
)
e
−[i/((
) )]E
2
t
とする。xの期待値 < x > を計算し、振動するような答えであることを確認せよ。
[問い13-4]
エネルギーの期待値を計算してみよ。
Footnotes:
63
量子
力学だからといって、何がなんでも不連続になるわけではない。エネルギーが不連続でとびとびの量になるのは、束縛されている場合だけである。
64
体積無限大でなんらかの規格化をしたい時は、デルタ関数を使って、∫ψ
*
k
ψ
k′
dx=δ(k−k′)となるように規格化(デルタ関数的規格化と呼ぶ)することが多い。
65
シュレーディンガー方程式自体にδ(x)のような発散項が入っている場合は別。
学生の感想・コメントから
前期にも先生が定常波の場合は動いてないんだよ、と言っていたと思うが、今日やっとその意味が理解できた。
できましたか。長かった〜〜(;_;)。
シュレーディンガー方程式を解くとき、まず定常状態で解いて次に時間変化を考えるのが基礎だと感じたが、時間変化を先に考えるときとかあるのですか?
うーん、たいていまず定常状態というか、ハミルトニアンの固有状態を作って分解するところから始めますね。もちろんいろんな解き方が可能だとは思いますが。
A=1/sqrt(2L)exp(iθ)のように関数になってしまうんですね(複数)
ん、もしかしてθを角度座標のθだと誤解してませんか??
このθは定数のθですよ。違う文字にしておいた方がよかったかな。
単位・次元を使っておおざっぱに予想するというやり方は便利だと思った。
けっこういろんなところで使います。身につけておいてください。
波がポテンシャルの力をうけて反射するときの波はどうなるんですか?
来週、ちゃんとやります。
λ = ±i[√[2mE]/
]は、境界条件を考慮する場合もあるんですか?
境界条件は、Eの値を決めるのに使います。この式自体はいつでも使います。
前に同じような計算をやった時は波動関数ψは連続であると仮定して計算したように思うのですが、今回はしなくていいのでしょうか。
いえ、今回もちゃんと連続になってます。ただし、ψの微分は連続ではありません。それはシュレーディンガー方程式に入っているVが連続ではないからです(領域外では∞になっている)。
問い13-1の前の説明ではポテンシャルエネルギーを考えてないのに、問13-1で1/2kx
2
を考えるのは変だなと思った。
ポテンシャルエネルギーがあっても、不確定性関係は成立しているので大丈夫です。
今更ですが、シュレーディンガー方程式を解くと何がわかるんですか??
ほんまに今更やなぁ(;_;)。
波動関数がわかります。波動関数がわかると、いろいろな物理量の期待値やら分散やらが計算できます。
コンピュータの波は面白かった(複数)
見ててあきないですね(^_^;)。
Eの中に1/L2が入っていますが、小さい物に入れるとエネルギーは大きくなるのですか?
はい、そうです。せまいところに閉じこめる→波長の短い波でないと閉じこめられない→エネルギーが大きくなる、ということです。
なんで粒子はいろんなEを持っているんですか?
逆に、いろんなエネルギーを持つ場合があるのがあたりまえ。エネルギーは誰かに規制されない限り、どんな値でもとれる。
量子力学では、いろんな値をいっせいに持つからややこしいけど、それはつまり波動関数の重ね合わせが起きているということ。
Hψ=Eψという式に変えてしまうところがわからなかった。
これについては、「定常状態のシュレーディンガー方程式」ということで、10.2節で説明してあります。もう一度読んで思い出そう。
今日求めたエネルギーはどんな物質に対応しているのですか? 光や電子ではないのですか?
質量のある粒子を考えているので、光は困りますね。電子でも陽子でも、とにかく1次元の箱に閉じこめると今日の話になります。
ψ
n
(x)=
√
2
L
e
iθ
sin
(
nπx
L
)
となったところで(θ残したまま)計算終わってもかまわないんでしょうか?
かまいません。どうせこのθは物理には効きません。
箱の中の粒子は1個だと思っていたけど、干渉し合って止まったりすることを考えると、他の粒子の存在も考えなくてはいけないのでしょうか。
いえ、干渉しあっているのは、他の粒子とではなく、自分自身とです。箱の中には一個だけ粒子がいるのですが、その粒子の波動関数に消し合いや強め合いが起こっている。粒子1個が波複数個からできていて、ちゃんと干渉するというのが量子力学のすごいところです。
File translated from T
E
X by
T
T
Hgold
, version 3.63.
On 24 Nov 2005, 12:06.