ここでhはプランク定数で、SI単位系での値は6.62606876×10−34J·secである。プランクに続くいろんな研究 に より、光は一個あたり(プランク定数)×(振動数)というエネルギーを持った粒子(「光子」と名付ける)でできているとわかった(なぜこんなことがわかっ たのか、という点は、第3章でくわしく説明する)。プランク定数は非常に小さいゆえに、通常我々が目にする光は、たくさんの光子の集まりでできている。 光のエネルギーが不連続とか、光が粒子だとか言われてもにわかに納得しがたいと思うが、同様に連続に見えて実は連続でない例として、コップの水を考えよ う。コップの水は見た目には連続的で、切っても切ってもいくらでも小さくなるように見える。けど、実際には水はH2O分子でできて いるのだから、切っていってH2O一個になったら、もう切れない。同じように、光を切っていったとすると、これ以上切れない単位が ある。たとえば向こうから光がやってくる時に、一瞬だけシャッター開けてすぐ閉める。シャッター速度を短くすればいくらでも小さいエネルギーの光を切り取 れそうだけど、そうはいかない。hνの整数倍というエネルギーの光しか作れないのである4。振動数ν を持った光が外界とやりとりするエネルギーは、hνの整数倍に制限される。
ニュートンは直進することを光が粒子である理由としていた。では、光は波であるのに、なぜ直進する(ように見える)のだろうか。波動説にしたがえば、光
はいろんな方向に広がろうとするはずである。右の図のように、ある直線ABの上から出発した波が、ある一点Pにやってくるところを考えよう。直線AB上で
は波の位相はそろっている(山なら全部山、谷なら全部谷)が、そこから離れた点にやってきた時、線上から点Pまでの距離の違いから、やってくる波の位相に
ずれが生じている(あるところからきた光は山、別のところからきた光は谷)。図の上の方に書いてある波形は、AB上からP点にやってきた波がどのような状
態でやってくるかを書いたものである。
波は干渉するので、山と谷がぶつかると互いに消しあう。上のグラフのようになっていると、真ん中付近をのぞいてはほとんどすべての波が消しあって消えてし
まう。真ん中付近は位相(つまり距離)の変化が比較的緩やかなので足し算しても消されずに残る。特に波長が短いと、この振動がより激しくなり、消しあう可
能性がより高くなる。結局、中央付近のあまり消しあわない波だけが、現実にこの場所にやってくる波だということになる。
単スリットを通り抜けた後の光を考えよう。右側にやってくる光はスリットを通り抜けた光の和であるが、スリットの幅より外にやってくる光は、上で説明し
た、位相の変化の少ない部分を含まないので、互いに消しあってしまう。スリット幅より内側については光がある程度消されずに残る。実際に計算してみると、
波長が短い時には図の点線より外側での光の振幅はほとんど0になってしまうことが確認できる。
波長が長いかスリットの幅が非常に小さいかどちらかの場合は、やってくる光の位相変化が小さいので、波は広い範囲で消されずに残る。
上図は波長が長い場合と短い場合で、単スリットを通り抜けた光がどのように重なるかを描いたものである。短波長の場合、図に示した点にやってくる光はたく
さんの山と谷が集まってできたものとなり、必然的に小さな振幅になってしまう。
長波長の場合には、光は波として広がることになる。光学の方では「波長とスリット幅が同程度の時よく回折が起こる」と言われるが、それはこういう理由であ
る。
つまり、各点各点の波としての光は広がろうとするのだが、光全体の進む路から離れたところへ来た波は互いに消しあってしまうので、全体としての光は広がる
ことができないのである。厳密に言うと、少し広がっているのだが、その広がりが小さくて見えない5。これは、後で出てくる「波動関数(これが何なのかはまだわからなくてよ
い)で表される、波であるところの粒子が、なぜ直進するように観測されるのか」という疑問に対する答でもある。覚えておこう。
そこで、光の波動性を表す実験として有名なヤングの実験を考えよう。ヤングの実験では点光源(実際の実験では単スリットで点光源化することが多い)から
出
た光が、複スリットを通った後回折7し
てスクリーンにあたり、そこに干渉縞が生じる。
二つのスリットからスクリーン上にやってきた光の電場をE0sin(k(r1−ct))およびE0sin(k(r2−ct))
としよう。電場の振幅E0は定数ではなくrが大きくなるほど小さくなるはずであるが、ここでは簡単のために定数とおいた。スクリー
ン上にできる電場はこの二つの和なので、
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(1.1) |
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(1.2) |
この実験を、「光は粒子でもある」という知見のもとに考え直すと、いろいろ不思議なことが出てくる。左の図はこの実験の様子を、光が粒子であるという観
点を強調して描いたものである。粒子説にしたがえば、光がやってくるということは実際には光子がやってくるということである。つまり、ヤングの実験で発生
する明暗の縞は、実は左の図のように、光子の当たる場所と当たらない場所が発生しているということになる。
ここで、原子を使ったヤングの実験も今の技術ならできるんだよ、という話
をしたら、
ここでスクリーンで起こっている現象を考えよう。スクリーンに当たる直前の光は、左図の上のような状態、つまり干渉を起こした波の状態であったはずであ
る。ところがスクリーンに当たると、粒子性が顔を出して一点のみに光子がぶつかる。広がっていたはずの波がいっきに一点に縮まってしまう、ということで、
このような現象を「波束の収縮」と呼ぶ。
収縮が起こるメカニズムについてはよくわかっていないが、そういうことが起こっていると解釈しなければならないような現象が起こっていることは確かである10。大事なことは、どこに収縮するのか
を決める方法がないということである。残念ながら量子力学で計算できるのは確率だけなのである。後でくわしく学ぶが、量子力学の計算を正しく用いれば波の
形が計算できる。波の振幅が大きくなっている部分(つまり「明」となる部分)に収縮する確率が大きく、振幅が小さい部分(「暗」部)に収縮する確率は小さ
いのである。
確率だけしか計算できない、ということについてはもちろん批判者も多く、量子力学は不完全であるとの主張がよくされてきた。その筆頭はアインシュタイン
であって、彼の「神はサイコロ遊びをしない」という言葉は有名である。アインシュタインは「量子力学の計算の中には入ってこないだけで、粒
子がどこにいるかは最初から決まっているはずだ」という考え方をしていた。この考え方を「隠れた変数の理論」と呼び、アインシュタイン以外にも多くの物理
学者がこの立場をとっていたが、この隠れた変数の理論では説明できそうにない実験結果がある。どうやら光子の位置を観測するまでは光子の位置は決まってい
ないと考えなくてはいけないらしい。