19世紀末、プランクが研究していたのは黒体輻射もしくは空洞輻射と呼ばれる現象である13。空洞輻射の研究はもともと溶鉱炉の
中がどの温度でどんな色に見えるかという疑問から始まった。実際どうなるかというと、低温では赤く光るのだが、温度があがるにしたがって橙、黄、白と白っ
ぽくなっていく。そしてさらに温度があがると今度は青白くなる。これは実は恒星の色と温度の関係とほぼ同じである。右のグラフがこの輻射のスペクトルであ
る。可視光は振動数が3.9×1014から7.9×1014Hzである。5000Kのグラフを見ると、この
範囲では、グラフはおおむね右下がりになっている。これは振動数の低い(波長の長い)成分の方が多いということであり、赤い色であることがわかる。温度を
あげるにしたがってグラフのピーク部分が振動数の高い(波長の短い)方向へ移動し、色が白→青と変わる。これがなぜ問題なのかというと、古典力学を使って
計算する限り、赤い色が理論的に導けないのである。「熱平衡状態にある物質には、1自由度あたり1/2kT のエネルギーが分配される」という法則である。k=1.380658×10−23J/Kで、ボルツマン定数と呼ばれる。 たとえば単原子分子の理想気体では分子一個あたりの持つエネルギーは3/2kTとなる(動く方向が3つある ので3倍される)。また2原子分子であれば、5/2kTとなる(単原子分子の場合に比べ、2方向に回転でき る)。もちろん1/2kTなどの値は平均値もしくは期待値である。実際の原子はいろんなエネルギーを持って いるが、その分布の平均がこの大きさになる。また固体分子の場合、一定点を中心に振動を行っていると考えることができるが、その振動の位置エネルギー(1/2kx2) に対しても同様に一つの自由度あたり1/2kTのエネルギーが分配され、全自由度は6となり、1分子あたり 3kTのエネルギーを持つ。
実際に分子がこのようなエネルギーを持っていることは、比熱の測定から確認できる。上で述べたことから、二原子分子の気体の温度を1度あげると、1分子あ
たり5/2kだけエネルギーが上昇する。ということは、温度1度上昇させるには5/2k×
(分子数)が必要である。固体の場合は、温度を1度上昇させるには3k×(分子数)のエネルギーが必要である14。この値は、実測とだいたい一致する。
原子はさまざまな形態のエネルギーを持っている。そのさまざまな形態のエネルギー、たとえば回転のエネルギーにも並進のエネルギーにも振動の位置エネル
ギーにも、等しく1/2kTずつのエネルギーが分配されているのだから、この法則が普遍的なものであろうと
考えるのは理にかなっているように思われる。
まだ統計力学は勉強してないと思うが、ここではとりあえず「等分配の法則」というものがあるということだけ知っておけばよい。しかし,なぜこんな法則が
成立するのか、雰囲気だけでもつかむために、以下のようなたとえ話で考えよう。
6個のリンゴを3人でわける分け方を考える。3人に2個ずつ、と平等にわける分け方は何種類だろうか。まず最初の一人に2個渡す方法が6C2=15
通り。次に残った2個をもう一人に渡す方法が4C2=6通り。最後の一人には残ったものを渡すしかないか
ら、1通りだけ。結局「平等にわける」場合の数は90通りとなる。| A君 | B君 | C君 | 場合の数 |
| 6 | 0 | 0 | 1 |
| 5 | 1 | 0 | 6 |
| 4 | 2 | 0 | 15 |
| 4 | 1 | 1 | 30 |
| 3 | 3 | 0 | 20 |
| 3 | 2 | 1 | 60 |
| 2 | 2 | 2 | 90 |
| 腹の数 | 波長 | 波数 | 振動の様子 |
| n=1 | 2L | [π/L] | |
| n=2 | L | [2π/L] | |
| n=3 | [2L/3] | [3π/L] | |
| n=4 | L/2 | [4π/L] | |





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(2.1) |
黒体輻射の場合、まわりの壁とエネルギーをやりとりすることによって、振動の様子は刻一刻と変わっていく。実際に起こる振動はこれらのうちのどれかとい
うわけではなく、いっせいに起こる。実現するのはいくつかの波の重ね合わせである。古典力学的に考えれば、波のエネルギーは任意の値をとることができるの
で、いろんな振幅の波の足し算が実現可能である。右の図は(nx,yy)=(3,5)の波と(nx,ny)=
(2,4)の波の重なった状態である。
では次に、3次元の場合を式で示そう。空洞を一辺Lの立方体とすれば、中に存在できる電磁波の波数は3つの方向それぞれごとにn[π/L]のように、
[π/L]の整数倍になる。
ここまで、電場がベクトルであることを無視して、壁のところ(x=0,x=Lなど)で固定端境界条件を満たすように書いてきたが、実際はもう少し複雑で
ある。今は周りの壁を完全な導体だと考えているので、導体内部で電場が0になる。また、電場は境界において接線成分が連続(マックスウェル方程式rot→E=−[(∂→B)/∂t]から出
る)であるので、壁に平行な方向は壁のすぐ外でも0でなくてはいけない。すなわち、壁と平行な方向は固定端条件を満たす。ゆえにx成分Exはy
=0,Lおよびz=0,Lで0になっていなくてはいけない。同様にEyはx=0,Lおよびz=0,Lで、Ezはx
=0,Lおよびy=0,Lで0となるようにしなくてはいけない。これにマックスウェル方程式div→D=
ρすなわち、[(∂Ex)/∂x]+[(∂Ey)/∂y]+[(∂Ez)/∂z]=[ρ/(ε0)]
(真空中の場合)を加えて考えると、電場は
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(2.2) |
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(2.3) |
振動数がνからν+∆νの間にある格子点の数(電磁波のモードの数)を勘定してみる。問い2.2から、ν =
[(c√[((nx)2+(ny)2+(nz)2)])/2L]
であることはわかっているので、逆に考えると振動数νならば、nxの最大値は
[2Lν/c]に近い自然数となる。(nx,ny,nz)の空間で考えると、この空
間内の体積1の立方体一つごとに格子点は一個あるので、体積を計算すれば格子点の数を概算できる。振動数がνからν+∆νの間にある格子点の数は、半径
[(2L(ν+∆ν))/c]の8分の1球と、半径[2Lν/c]の8分の1球の体積の差をとって、
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(2.4) |
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(2.5) |
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| 水素 | 窒素 | アルゴン | ヘリウム | 水蒸気 | ベンゼン | |
| 1グラムあたりの定積比熱(J/gK) | 10.23 | 0.740 | 0.313 | 3.152 | 1.542 | 1.250 |
| 分子量(g/mol) | 2 | 28 | 40 | 4 | 18 | 78 |
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(2.12) |
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(2.13) |
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(2.14) |
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(2.15) |