初等量子力学講義録2006年度第5回

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第4章 ボーアの原子模型

 前章で書いたように、光は粒子性と波動性の両面を持ち、相手によって(あるいは状況設定によって)そのどちらかの側面を顕わす。特にエネルギーの不連続 性は、光を波動として捉えると非常に不思議な現象である。しかし、この不思議な性質は光子だけにあるのではない。エネルギーなどの物理量が連続的値を取る と考えると説明できないことが物質の場合にもある。物質の不連続性の顕れの一つは、原子の中の電子の状態である。

4.1  原子模型の困難

 ラザフォード(Rutherford)は1911年にアルファ線を非常に薄い金板にあてる実験で「原子の中心にはプラス 電気を持った核がある」ということを示した。これにより、プラスの電気を持った原子核の回りをマイナスの電気を持った電子が回る、という古典的な原子像が 考えられた。我々が考える「原子の大きさ」は原子核の大きさではなく、まわりを回っている電子の広がりの大きさである。しかし、このおなじみの原子模型 は、現実の原子を説明できない。なぜなら、古典力学的計算では電子の持っているエネルギーは原子核に近づくほど小さくなる。そして、古典力学的観点から は、電子がどのような半径で回るかは、全く任意である。たとえば、ほぼ同じような運動方程式で表すことができる、惑星の円運動(実際には楕円である)は古 典力学にしたがうと考えていいが、軌道半径にはなんら制限はないように思われる。



[問い4-1] 質量Mの陽子と 質量mの電子が距離r離れて、クー ロン力で引き合いながら重心の回りを角速度ωで等速円運動している時の運動方程式をたててみよ。二つの粒子の運動方程式はどちらも、「一方が静止し、もう 一方が[Mm/(M+m)]という質量を持って半径r、角速度ωの円運動をしている」場合の運動方程式と同じになることを示せ。クーロンの法則の比例定数 をk、素電荷をeとする。
[問い4-2] この系の持つ全エネルギーを、k,r,eで表せ。(注:M,m,ωはちゃんと計算すれば消える)



 上の問いを解くとわかるが、原子の持つエネルギーは電子・陽子間の距離(ほぼ、原子の半径と考えよい)だけで決まり、半径が小さいほどエネルギーも低く なる。原子核の半径は、原子の半径に比べ、10−5倍以下である。なぜ電子はもっと下の、エネルギーの低い方にいかないのだろう? -まして今電子は加速度運動をしており、加速度運動する荷電粒子は一般に電磁波を放出することによってエネルギーを失うはずである。
 「物体はエネルギーの低い方に行きたがる」という原則からすると、電子はこの電磁波を放出しながら、どんどん原子核に近づくはずである。そして、その時 間は驚くほど短い(章末の演習問題参照)。
 しかし現実には、どの水素原子を見ても、電子は一定の場所を安定して回っているようである(実際の処電子が回っているところが見えるわけではないが、す くなくとも水素原子には「個性」はなさそうである)。何かが電子に制限を加えているのである。しかし、古典力学的に考えるとけっして電子の軌道に制限が出 てこない。
 このことは今考えている物理現象に登場する量の次元を考えることからもわかる。水素原子の半径を何かから計算できるとしよう。この場合、その計算結果に 使える「材料」となる量は

次元 MKSA単位系での数値
陽子の質量M [M] 1.7×10−27kg
電子の質量m [M] 9.1×10−31kg
素電荷e [Q] 1.6×10−19C
クーロンの法則の比例定数k [ML3 T−2Q−2] 9.0×109F−1m
である。中央の枠の[   ]に書いたのはそれらの量の持つ次元で、Mは質量は、Lは長さ、Tは時間、Qは電気量を表す。 単位で 書くならば、[L]はメートル、[M]はキログラム、[T]は秒、[Q]はクーロンである。物理の計算では必ず次元が揃わなくてはいけない1。クーロンの法則の比例定数の次元が上 のようになるのは、F=[(ke2)/(r2)]のように、e2[Q2] をかけてr2[L2]で割ると力[MLT−2]になるからである。
 もし原子の半径が古典力学で計算できるとしたら、これらの量を使って作られた、長さの次元([L])を持つ式が出てくることになる。しかし、どうやって もそんなことはできない。すぐにわかることは[L]を含むのはkだけだが、そのkに含まれている[T]を消してくれる相手がどこにもいないことである ([M]や[Q]は消してくれる相手がいる)。つまり、古典力学を使って計算している限り、原子核のまわりを電子がみな同じ軌道で運動していることを導く ことはできそうにない。
 こういうふうに定数の次元を考えることで物理的内容にある程度の目安をつけることを次元解析と言う。

【補足】 この部分は授業では話さない可能性もあるが、その場合は 読んでおいてください。
 次元解析は物理を考えるうえで強力なツールであり、いろいろな場面で役に立つ。 たとえば演習問題では、ケプラーの法則(惑星の公転周期の自乗と平均距離の3乗が比例する)が次元解析だけから導かれる。なぜこのような考え方がうまくい くのか、その理由は以下のように考えることができる。
たとえばSI単位系では長さの単位にメートル、時間の単位に秒、質量の単位にキログラムを採用しているが、使う単位を変えたとすると何が起こるかを考えて みよう。物理というのはどんな単位を採用しているかにかかわらず成立すべきものである。だから、単位系を変更した時、物理量の間の関係式の左辺と右辺が同 じ変更を受けなくてはいけないのである。たとえば、時間の基礎単位を秒から分に変えれば、時間を表す数値はすべて1/60になるだろう。この時、速度は (m/sからm/分に変わるから)60倍になる。加速度は(mm/s2からm/分2に変わるから)602=360 倍になる。等加速度運動の式
x=x0 +v0 t + 1
2
at2
(4.1)
は、ちゃんと両辺の次元があっており、tが1/60倍になると同時にvが60倍、aが3600倍になれば、両辺が変化しない。物理に出てくるどんな式もこ のような関係を満たしている。このようにスケールの変換をした時に左辺と右辺が同じ変換をするためには「次元」がそろっていなくてはいけない。たとえば、
x=vt2
(4.2)
のような式があったとすると(もちろんこんな式はないのだが!)、時間の単位を秒から分に変えた時、左辺は変わらず右辺が1/60になってしまうことにな る。物理の式として、こんな不合理な話はない。

【補足終わり】
 以上のような理由で、古典力学を使う限り、原子の中の電子が一定の距離のところしか回れないなどということは導出できない。このようなおかしな結果に なった理由として、
原子の内部のようなミクロな領域では、マックスウェルの電磁理論やニュートン力学が成立しないのではないか?
という考えが浮かぶ。実際、マックスウェルの電磁気学が成立しなくなることがあることは、プランクたちが光の粒子性という形で示している。
そこで、プランクが「光のエネルギーの変化はhνの整数倍である」としたように、hを含む条件をつけることでこの状況が回避できるのではないかと考えられ る。ありがたいことにhの次元は[ML2T−1]であり、上の量と組み合わせることで次元が[L]になる量 を作れそうである2
では、次元解析から電子の半径がどう予想できるかをしめそう。上に書いたように、次元[T]を消去せねばならない。kに[T−2]、 hに[T−1]が入っていることから、[(h2)/k]という組み合わせが必要である。この組み合わせだ と、次元は[MLQ2]であるから、[MQ2]を消すためにM,m,eを使う。原子の半径に関係あるのは原 子核と電子の相対運動であるから、相対運動を記述する時に出てくる質量である換算質量μ = [Mm/(M+m)]を使って次元[M]を消すのが妥当だろう(ただし、この場合の換算質量は電子の質量とそう大きくは違わない。換算質量の意味について は、問い4.1を参照せよ)。
 以上から、原子半径(電子の円運動の半径)rは(無次元定数)×[(h2)/(kμe2)]という形にな ると考えられる。具体的な数字をいれてみると、この値は

h2
kμe2
= (6.6×10−34)2
9.0×109×9.1×10−31×(1.6×10−19)2
=2.1×10−9[m]
(4.3)
となる。この値は水素原子の半径よりちょっと大きいのだが、実は次の節で出てくるボーアの量子条件というのを使って計算すると、この答えには無次元定数と して[1/((2π)2)] ≅ 0.0253がかかり、5.3×10−11mという答えが出て、現実の水 素原子半径ぐらいになるのである。この値[(h2)/(4π2 kμe2)]をボー ア半径と呼ぶ。

4.2  ボーアの量子条件

 前節では次元解析から原子の半径を予想したわけだが、その予想の拠り所になったのは「光のエネルギーがhνの整数倍でなくてはならないという条件がある のなら、電子の運動にも何かhに関係する条件があるのではないか?」という考察だった。その条件はボーア(Bohr)の量子条件と呼ばれるもので、電子が 円軌道を描くと考えた場合には、
μv ×2πr = nh
(4.4)
と書かれる3。nは自然数であり、h はプランク定数である。hがちょうど(運動量)×(座標)という次元を持っていることに注意せよ。歴史的にこのような条件が出てくるまでは、長〜〜〜い話 があるのだが、ここではおおざっぱに、「hが式に入ってくるとしたら、(運動量)×(座標)という形になっていれば次元が合う」という程度で理解しておい て欲しい。後でド・ブロイ(de Broglie) の物質波の話や、シュレーディンガー(Schr dinger)方程式の話などが出てくると、この式の意味も少し物理的にわかってくると思う。
 この条件によって電子のエネルギーは下限を持つことになる。ボーアの条件はrが小さくなるとvが反比例して大きくなることを示しているが、運動方程式は rとv2が反比例するという制限を与えている。両方を成立させるには特定の軌道しか回れないことになる。
ここで、計算の中にhが登場してきた時に、自然数nがいっしょにくっついてきたことを思えば、最終結果でもそうなっているだろうと考えられる。次元解析か ら半径は[(h2)/(kμe2)]に比例することがわかったのだから、結局半径は(無次元定数)×[(n2h2)/(kμe2)] という式になるだろう。つまり、電子の運動の半径は、n2×(ボーア半径)のように、n2に比例する。
 一方、電子の持つエネルギーは−[(ke2)/2r]で表される(問い4.1参 照)から、全エネルギーは
−(未定の無次元数) k2 μe4
n2 h2

(4.5)
となる。(未定の無次元数)の部分を求めるには具体的計算が必要であるが、ちゃんとやれば2π2であることがわかる(章末演習問題 で実行せよ)。
 ボーアは、量子条件が満たされている時には古典力学での運動方程式が成立していて、電子は電磁波を放出することはないと考えた。ただし、後で述べるよう にある軌道から別の軌道へ(つまり量子条件のnが違う状態へ)移る時には、その軌道間のエネルギー差分のエネルギーを吸収または放出する。
 原子が安定して存在できるのは、この条件が満たされない軌道が存在しないからである。特に、n=1の軌道よりエネルギーの低い状態が存在しないのだか ら、それよりも下に落ちることはできない。単に「ボーアの条件がみたされていれば電磁波が放出されない」とだけ本に書いてあることがよくあるが、より根本 的な理由として「ボーアの条件によってエネルギーに最低値ができるので、その最低値になったらもうエネルギーをもった電磁波を放出できない」ということを 理解すべきである。量子条件がなければ、この世にある原子はみな、原子核のサイズまで縮んでしまうことになる(その前に原子核も存在できないだろうけれ ど)。

4.3  状態の遷移と原子の出す光

 今求めた通り、水素原子内の電子の持つエネルギーは−[ε/(n2)]で表される(E1=−εで、ε = 13.6eV)。したがってn=1に対応する軌道(基底状態)は安定であるが、n=2,3,4,…の状態(励起状態)はそうではない。電子はすきさえあら ばよりエネルギーの低い状態へと飛び移ろうとする。逆に何かからエネルギーをもらうと、より高い軌道へと飛び移る。これを「遷移」 (transition)とか「量子ジャンプ」などと言う。途中の軌道は量子条件が許さないので存在できない。たとえばn=n2か らn=n1(当然n2 > n1)へと遷移すると、エネルギーが
En2→ n1 = ε ( 1
(n1)2
1
(n2)2
)
(4.6)
だけ余る。
 ボーアは原子が光を出す時は、このような軌道の遷移が起こり、その時に余ったエネルギーが光子一個になって放出されると考えた。
 その時出る光の振動数はエネルギー保存則により、
n2→ n1 = ε (
1
(n1)2
1
(n2)2
)
(4.7)
を満たす。この式は、それよりも前から求められていた、水素原子から出てくる光の波長に関する式

1
λ
= R ( 1
(n1)2
1
(n2)2
)
(4.8)
と比較された(Rはリュードベリ定数)。ν = [c/λ]を使うとこの二つの式は完璧に一致し、ボーアの原子模型が現実の水素原子を表していることが確実となった。と同時に、この原子模型における「遷 移」の存在は、原子の内部では古典力学が役に立たないということを証明している。
 炎色反応で代表されるように、原子はそれぞれ特有の光を吸収・放出する。それは各原子ごとに電子の回っている軌道と、そのエネルギーの値が違っているか らである(水素以外の原子の場合は、電子が2個以上回っているので話がずっと複雑になる)。

 この節続く

4.5  演習問題(関連する部分のみ)

[演習問題4-1] ケプラーの第3法則(公転周期の自乗と軌道長径の3乗が比例する)を、次元解析だけから導け(この場合使える物理定数は 万有引力定数Gである。後、太陽の質量Mも使ってよいだろう)。
[演習問題4-2] 弦を伝わる横波の伝播速度は、弦の線密度ρと弦の張力Tに依存する(ギターの弦を考えてみよ)。どのように依存するかを 次元解析から導け。
[演習問題4-3] 電荷qを持った粒子が加速度aの加速運動をしている時、単位時間あたり[(2k(aq)2)/(3c3)] のエネルギーを電磁波として放射する。電子が陽子から距離rの位置を回っているとすると、この時放射されるエネルギーは単位時間あたりどれだけか。(陽子 の放出する電磁波は無視して考えよ)
[演習問題4-4] 問い4.1で計算した電子の持つ全エネルギーの式で、時間によって変化し うるものはrだけである。この全エネルギーの式の時間微分にマイナス符号をつけたものは、さっき計算した単位時間に放射されるエネルギーに等しい。これを 微分方程式として解き、何秒後にr=0になるか、計算してみよ。最初電子は半径5.0×10−11mのところを回っていたとして考 えよ。
[演習問題4-5]
問い4.1で作った古典力学での運動方程式とボーアの量子条件を使って、水素原子の持つエネルギーを計算せ よ。結果を−[(E1)/(n2)]という形(E1は定数)で表せ。
結果を数値で書くと、
En = − 13.6
n2
eV
(4.18)
であることを示せ。
[演習問題4-6] 水素ではなく、ヘリウムを考える。ただし電子は一個しか回っていないとする(He+イオンの状態 である)。この電子の持つエネルギーと基底状態での原子の大きさを計算せよ。水素と比べて、何倍違うか?
[演習問題4-7] 水素原子の回りに電子でなくμ粒子(性質は電子に似ているが、質量が約200 倍)が回っていたとする。この水素原子もどきの基底状態での大きさは通常の水素原子に比べて何倍か。
[演習問題4-8] 太陽(質量M=2.0×1030kg。静止しているとみなす)のまわりを地球(質量m=6.0× 1024kg)が半径1.5×1011mの円運動しているとしよう。この運動に対してもボーアの量子条件が 成立しているとすると、nはいくらぐらいになるだろうか?(万有引力定数Gは6.7×10−11Nm2kg−2)
普通、太陽と地球の運動を量子力学を使って考えたりはしないのはなぜなのか、このnの数字を使って説明せよ。


Footnotes:

1次元という概念が理 解しにくい人は、まず「物理の計算では両辺の単位が揃わなくてはいけない」というところから理解していくとよい。
2プランクは始めてプ ランク定数hを導入した時、「次元のある物理定数が増えた」ということを一番喜んだという話である。余談であるが、kで表されるBoltzmann定数 (統計力学で出てくる)も、実際に最初に使ったのはプランクである。「kもプランク定数と呼ぶべきでは?」と言われて「私は定数二つもいらないよ」と答え たとか。
3ボーア本人は、プラ ンクと同様にEとhνが比例するという考え方から出発している(実際にボーアが使った式はE=−1/2n hν)。この場合のνは電子の単位時間あたりの回転数である。νは当然場所によって違う。電子の古典的運動は惑星の運動と同様のケプラーの法則に従うの で、E3=−k ν2という式が成立する(kは比例定数)。この二つの式からエネルギーが決まる。

学生の感想・コメントから

 次元というのは便利だなぁ(多数)
 便利なものなので、これからどんどん使ってください。

 
 
hν = ε ( 1
(n1)2
1
(n2)2
)
という式はどうやって導くのか?
 その前の、エ ネルギーがE=−ε/n2になるところはわかるでしょうか?
 それがわかれば、右辺はn=n1の時のエネルギーとn=n2の時のエネルギーの差です。そのエネルギー差の分だけ、外部にエネルギーが放出される わけです。その外部に出るエネルギーは光の形で出るので、左辺はhνとなります。

 「何かが電子に制限を加えている」というが、結局何が制限を加えているのでしょう??
 古典力学的に みると「制限を加えている」ことになりますが、量子力学的に見ると「そもそもこういう状態しか存在しない」ということになります。我々がふだんの生活で眼 にしているスケールでは「こんな状態しかない」ということが実感できず、物体はどんな状態でも取れそうに思える。しかし、むしろそっちの方が錯覚(スケー ルがでかいからそういうふうに思えるだけ)なのです。

 なぜ量子条件を満たしていると原子はつぶれないのか謎でした。
 一つ上の質問 でも同じですが、古典力学的にものを見ていては謎のままです。量子力学をやるには物の見方を変えないと。むしろ、「量子条件を満たしている状態しかこの世 には存在しない!」というぐらいの開き直りが必要です。

 実体がないのにエネルギーを持っていたり模型で表されたり、一体なんなんですか。
 「なんなんで すか」と言われて「こんなの」とすぐ答えられるぐらいなら苦労はない(^_^;)。
 「実体はない」というのはおかしな言い方ですよ。今日説明したような内容 こそが「原子の実体」なのです。

 1/2mv2の1/2のようなものはどうやって予測するのですか?
 残念ですが、 次元解析では1/2や2πのような無次元の数定数は出てきません。

 hがなんか適当な感じでつくられているようだけど、ぴったり当てはまるあたりがすごい気がす る。
 「適当」と言 いますが、あの式出すまでにボーアさんは相当苦労したと思いますよ(^_^;)。

 原子核を回る電子が光を出してより内側に移るということは、半径がちぢんでしまうことになる のですか?
 もちろんそう なります。もっとも、通常の原子は最初から最小の大きさ(基底状態)にいるわけですが。

 なんか、これをこうしたらこうなって、なんかあの式に似ているからこれをこう置いたらこう なったから、この式は正しい・・・・みたいに聞こえるんだけど、もし一つでも違えばすべてがダメになるような不安定な分野に聞こえるんですけど。
 今日の話だけ 聞いているとそんなふうに思えてしまうかもしれません。
 ただわかって欲しいのは、ボーアさんにしろ誰にしろ、適当にやっているわ けではなく、与えられた問題を解くために四苦八苦して、いろんな可能性を考えた(そうやって試してみた考えの中にはもちろん、「一つ違ってたからダメだっ た」ような理論も入っている)末にこの考えに到達したわけです。授業では、先人がいろいろやってみて「これだ!」と最後に到達した部分だけを話すのでつい つい「適当にやったら答が出た」みたいに思えてしまうかもしれません(特に今日のボーアの話は、よく言えば大胆、悪く言えば無茶な論理展開ではありま す)。
 今のボーア理論はなぜ生き残るかというと、それは実験結果を見事に再現し たから。これがなかったら「ボーア、適当なこと言うな」で終わってしまうかもしれません。
 いろいろと苦労した上、実験との比較というテストをパスした結果の理論と いうのは、けっして不安定なものではないですよ。

 あ、先生。チャックが半開です。
 そんなこと、授業終わってからこんなところに書かれても(;_;)。

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On 19 May 2006, 14:21.