前節で考えたのは、粒子が箱の中に閉じ込められている場合であった。そこでは「境界より外では波動関数が0になる」と考えたが、これはつまりそこに「無限
の位置エネルギーの、越えられない壁」があって、波動関数がそちらに侵入できないのだと考えられる。別の言い方をすれば、「壁」の部分では粒子に無限の大
きさの力が一瞬働いて、方向を変えてしまったと考えよう。
「壁にぶつかったから跳ね返っただけのことじゃないんですか、なんでポテンシャルなんて出てくるんですか?」と疑問に思う人が時々いるが、そ
もそも「壁にぶつかったから跳ね返る」という現象が起こるのは壁から力を受けるからであり、力が働く時には(その力が保存力であれば)必ずそれに対応する
ポテンシャルが存在する。たとえば陽子と陽子が衝突する時、実際に粒子どうしが接触したりはしない。実際にぶつかるよりもずっと前にクーロン力による反発
で跳ね返る。また別の考え方をすると、粒子に力が働いて跳ね返るわけだが、その力が保存力であると仮定したら、力が働く場所にはポテンシャルに傾斜がある
ということになる(上図参照)。
実際に起こる現象としては、おそらく位置エネルギーの差にしろ力にしろ、無限のエネルギー差や無限の力が働くとは考えがたい。そこで以下では、有限の高さのポテンシャルの障壁に波があたった時に何が起こるかを考えよう。ただし、ポテンシャルの変化はある地点で急激に起こるとして計算を簡単にする(傾きを有限にしても解けないわけではないが計算が面倒になる)。結果として粒子には(古典的に考えれば)一瞬の間に力を受けることになる。その状況を右図のような
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(5.20) |
2 k2)/2m]=E,[(
2 (k′)2)/2m]=E−V0 である。ここで、x > 0の領域にいるのは、左からやってきた波eikxの
一部が壁を乗り越えてやってきているのだろうから、どれくらい透過したかを示す係数Pをつけて表した。一方x <
0では、壁のところで一部反射して左行きの波ができる可能性があるので、その波がRという係数をもっているとして足し合わせた。P,Rは一般に複素数でよ
いが、その値はx=0における接続で決まる。|P|は透過波の、|R|は反射波の振幅に対応する。
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2 k2)/2m]=E,[(
2 (k′)2)/2m]=E−V0なので、V0 > 0 ならばk > k′である。この場合はポテンシャル的には「壁を登る」ということになる。逆にV0 < 0の時k < k′となるが、この場合は壁を登るというよりは「階段を下りる」感じになる。この二つで反射の様子は大きく異なる。たとえば電子が金属内から空気中に飛び出す時などがV0 > 0の状況に値する。ポテンシャルは空気中の方が高い(金属は電子を引っ張りこもうとする)ので、飛び出した後、電子の運動エネルギーが減少する。もし十分な運動エネルギーを持たなければ空気中には出て行けない(光電効果の話を思い出せ)。
まず、k >
k′の場合のグラフを見よう。この場合、粒子はポテンシャルの高い方向に向けて入射・透過するので、透過後は運動エネルギーを減らして波長がのびる。そし
て、反射波の位相はずれていない。このことを理解するには、「グラフの入射波が壁にあたらずにそのまま続いたとしたらどんな波ができたのか」と考えるとよ
い。このグラフの場合、もし壁がなければ、境界のすぐ右には山ができていたはずである。実際には境界があって反射が起こったわけであるが、本来境界のすぐ
右にできるはずだった山は向きをかえて、境界のすぐ左に存在している。つまり、「山が山として跳ね返った」ということである。


| 波数の関係 | ポテンシャル | 波長 | 位相速度 | 群速度 | 反射波の位相 | 境界で波は |
| k > k′ | 高い方へ | 長くなる | 速くなる | 遅くなる | ずれない | 強め合う |
| k < k′ | 低い方へ | 短くなる | 遅くなる | 速くなる | πずれる | 弱め合う |
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2(k′)2)/2m]=E−V0から決まるk′が虚数になってしまうからである。しかし、物理的状況としてはE−V0 < 0という状況だって有り得る。その場合どうなるのだろうか。もう一度シュレーディンガー方程式を解き直そう。
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この式を解けば、
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(5.32) |
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(5.33) |

kの運動量を持ち、反射波はー
kの運動量を持ちます。二つの波の振幅が等しければ、期待値は0になって定常波になるわけです。
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つまりこの場合、反射波の位相は−2φだけずれることになる。定義からして、φは0 < φ <
[π/2]を満たす角度(第一象限内)である。この計算でわかったように、E < V0の場合、反射波の振幅を表すRの絶対
値が1になる。つまり、結局は全部が跳ね返っていることになる。
同様に計算するとDは
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(5.37) |
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このようにシュレーディンガー方程式を解くと、古典力学的にはありえない、「運動エネルギー
が負の状態」が解として出てきて、古典力学的には到達し得ないところにまで波動関数が浸み出してくることになる。節で考えた、波動関数が壁でぴったりと0
になるような場合というのは、ポテンシャルの高さVが無限大の極限になっている。この場合はκ = ∞であって壁に入るなり波動関数は0になる。 ここで、古典的に見て運動エネルギーがプラスの時とマイナスの時の波動関数のグラフの違いを指摘しておこう。グラフ上の違いの話しなので、波動関数の実部の部分だけを考える。運動エネルギーがE運という固有値を持っているとすると、
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| − | 2
2m | ∂2
∂x2 | ψ/ψ = E運 |