初等量子力学2006年度講義録第14回

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後期の「量子力学」の第1回へ

 先週中途半端に終わっていたが、エネルギーの期待値はihbar[∂/∂t] なりHなりをψ*とψの間にはさむことで計算できる、というところまでを話した。今日はその続き。まず 先週の復習をした。

 今、 ψ=F1ψ1 +
F2ψ2 +F3ψ3 +… のような波動関数が用意されていたとする。ただし、ψ1 などは、演算子Aに対する固有値方程式

1a1ψ1

などの解である。この状態でAに対応する物理量を測定したとすると、
のどれかが起こる。どれが起こるかはやってみるまでわからないが、その確率 はF1、F2、F3、…の絶対値の自乗に比例する。

 別の物理量Bを測定したら何が起こるんですか?
 いい質問です。Bに対する固有値方程式

1 =b1φ1

を解いて、固有関数を用意して、ψ=G1φ1 +G
2φ2 +G3φ3 +… のように別の展開をしておきます。その上で測定をすると、
のどれかが起こる。どれが起こるかはやってみるまでわからないが、その確率 はG1、G2、G3、…の絶対値の自乗に比例する、ということになります。

 Aを測定してからBを測定すると、結果は違いますか?
 それもいい質問です。もちろん変わります。Aを測定するということをやると、結果としてすでに波動関数が収縮しているので、収縮した波動関数をまたφi で分解して表すことになります。当然、
F1、F2、F3、…などの係数は変わってきます。

 同じ固有値で 波動関数が2種類以上あったらどうなるんですか。
 おお、それもいい質問ですね。そういう場合は「縮退している」と言います。たとえば

1Aa1ψ1A

1Ba1ψ1B

のように、同じ固有値を持つ波動関数とがあったとします。
この場合、ψ=F1Aψ1A +F1Bψ1B +F2ψ2 +F3ψ3 +… のように展開されます。ただし、ψ2ψ3には縮退がないとしました。
  この状態でAに対応する物理量を測定したとすると、
のどれかが起こることになります。つまり測定値「a1 」が得られた時は、波動関数は収縮しきれずに、まだF'1Aψ1 +F'1Bψ1Bと いう重ね合わせ状態なんです(最初よりは重ね合わせの数が減ってますが)。

 ちなみに、別に波動関数が縮退してなかったとしても、我々の使う観測装置が原理的に精度の悪いもので、
測定値「a1 」と測定値「a2 」が区別できないようなものだったとすると、

などということもあり得ます。
 今収縮したのか、最初からψ1 だったかは区別できるんですか?
 先週書いてもらった紙でも、その質問をした人がいましたが、もし1回しか実験せず、しかも実験前の状況についての情報が何もないのなら、区別はできませ ん。たとえば同じ状況で複数回実験ができれば混ざっていたかどうかはわかります。
 あるいは、実験は一回でも、実験前の状況をどうやって作ったかを知っていれば「そういう作り方をしているなら波動関数は重ね合わせになっているはずだ」 とか推定できるでしょう。たとえばヤングの実験なんて、上から通ってきたか下から通ってきたかの重ね合わせになっていることは予想できますね。
 ヤングの実験の場合は二つの重ね合わせだということですか?
 いや、スリット通る前ですでに何個かの重ね合わせである可能性もあるんで、二つではすまないかもしれません。

 ちょっと復習が長くなり、この章の最後が切れてしまったが、こういうとこ ろにつっこんだ質問をしてくれるのはとれもありがたい。

 というわけで続きへ。

 時間依存性がe−iωtだけになっているような状態はエネルギーが確定している状態であるが、この場合、確率密度ψ* ψは時間によって変化しなくなってしまう。この事情は運動量の固有状態について考えた時に、eikx一つで表される状態(∆p= 0) が、空間に均等に拡がってしまい、∆x=∞になるのと同様である。この意味で、∆x∆p同様に、∆Eと∆tの間にも
∆E∆t > h
(9.13)
という制限(不確定性関係)がある。なお、右辺のhは厳密な値ではない。
 ここで一つ注意。不確定性関係についてはよく「一方を観測しようとするともう一方の観測誤差が大きくなる」という感じの表現が見られる。だから誤解して し まう人が多いのだが、不確定性関係自体は「観測しようとすると」という前提があって成立するものではない。誰かが観測するかしないかとは関 係なく、一つの状態における∆pと∆x(あるいは∆Eと∆t)の間の関係なのである。後で具体的に示すが、∆xなどの値はxの標準偏差として(観測とは無 関係に)計算される。∆xは「ψがこれぐらいの範囲に拡がっている」という意味での数値であって、観測誤差を示しているのではない。もちろん、そのように 拡がった状態を観測すればxの観測値は∆x ぐらいの幅をもって拡がってしまうのは当然であるから、「観測誤差は最良の実験装置でも∆x ぐらいになる」ということは間違ってはいない。間違ってはいないがしかし、ほんとうに大事なのは観測前からある「状態の拡がり具合」であることを忘れては いけない。
 ∆E ∆t > hの場合も∆x∆p > hの時と話は同じで、∆tは波動関数の「ある特定の状態」の時間的拡がり、すなわち「この範囲ではψ*ψにほとんど変化が見られな い」という時間的長さなのだと解釈すべきである。 極端な場合、∆E=0になっているのは、上にあげたψ(x,t)=φ(x) exp[−[i/hbar]Et]のような関数になってい て、ψ*(x,t)ψ(x,t)=φ*(x) φ(x)となっている。この場合、状態の確率密度には全く変化が見られない。また、∫ψ* x ψdxのように間にxをはさんで積分すればxの期待値が計算できるが、これもエネルギー固有状態ならば時間によらない。
一方、
ψ(x,t) = A1φ1(x)e−iω1t+A2 φ2(x)e−iω2 t
(9.14)
のような、二つの状態の重なりの状態を考えて、その状態に対してxの期待値を計算すると

< x > = ψ*xψdx =

(A*1φ*1(x)e1t+A*2 φ*2(x)e2 t)x(A1φ1(x)e−iω1t+A2 φ2(x)e−iω2 t)dx
=
|A1|2 φ*1(x)xφ1(x)dx+|A2|2 φ*2(x)xφ2(x)dx

+A1A*2 e−i(ω1−ω2)t φ2*(x)xφ1(x) dx +A1* A2ei(ω1−ω2) t φ1*(x)xφ2(x) dx

(9.15)
となる。今度はtは消えることなく、後ろ2項が時間的に変化する部分となる。つまり、これは定常状態ではないのである。
 そして、その変化は
ω1−ω2 = E1−E2
hbar

(9.16)
で表される振動数で起こる。一つのEしかない状態(つまりエネルギー固有状態)は時間的変化がまるでないつまらない世界だが、いろんなEを持つ波を重ね合 わせることで、なんらかの時間変化を作ることができるのである。このエネルギーの幅が∆E=E1−E2であ ると考える。すると、時間[hbar/∆E] たつと確率密度が一回増減する。逆に言えば、これより小さい時間では確率密度はたいして変化しない。そういう意味でなんらかの状態変化が起こるには、 [hbar/∆E] 程度は待たなくてはい けない。
 ∆t=[hbar/∆E]の範囲内には状 態変化がほとんどない(その時間内ならどの時間も同等)のだから、何か実験を行った時、「何かが起こる時刻」はそれぐらいの幅の間のどこで起こるのか予測 不可能になる(ゆらぎを持つ)だろう。だが、∆t(時間的拡がり)は観測前からそこにあったのである。そしてその最初からあった不確定性が、∆E∆t > hという式を満たすのである。

 つまり、量子力学において「エネルギーが確定している状態」というのは 「動いていない状態」になることになる。我々が古典力学的常識から思い浮かべる「エネルギーがある→激しく動き回っている」は量子力学的には正しくない。 古典力学的に見て「運動している」とは、量子力学的には「いろんなエネルギー固有状態の重なりにあるから状態が安定しない」ということなのである。

【以下長い註】この部分は、最初に勉強する時は理解できなくともよい。
相対論では、3次元運動量piとエネルギーEは一つの4元ベクトルにまとまる。いわば、エネルギー(正確には、エネルギー÷c)は 「運動量の時間成分p0」となってしまう。だから運動量を演算子で表すと−ihbar[∂/∂x ]であるのに対してエネルギーを演算子で表すとE=ihbar[∂/∂t]なのである。このようになるのは、波動関数ψ ≅ ei(x−ωt)のexp の肩が
i(
k
 
·
x
 
−ωt)= i
hbar

(
p
 
·
x
 
−Et ) = i
hbar
pμ xμ
(9.17)
と書けることに関連している。最後の式ではp0=−p0=E/cで あって、x0=ctであることを使って4次元的に書き直している。
「運動量が−ihbar[∂/∂x]なのにエ ネルギーが ihbar[∂/∂t] と、符号がひっくり 返っているのはなぜですか?」という質問をされることもよくあるが、それは結局、上の式の位相部分に現れる組み合わせ
pμ xμ = −p0 x0 + pi xi = −Et +
p
 
·
x
 

(9.18)
の時間成分と空間成分の符号の違いにその理由があると思えばよい。それは相対論的4次元内積の符号だとも考えられるし、解析力学で作用がS=∫( pdx −H dt)と書けたからだと言ってもよい。解析力学、相対論、量子力学は互いにつながっている。
 相対論的不変性を考えれば、∆x ∆p > hなのなら∆E ∆t > hになることも当然のように思えてくる。ただし、今考えているのはシュレーディンガー方程式という「非相対論的な波動方程式」なので、その立場では∆x ∆p > hと∆E ∆t > hはあくまで別の種類の式である。

【長い註終わり】
 ハミルトニアンHは今考えている系がどんなものかによって、いろんな形(調和振動子なら[(p2)/2m]+1/2kx2、 クーロン力なら[(p2)/2m]−[(ke2)/r])を取る。そのようなそれぞれの場合について、固有 状態(エネルギーが確定した状態)がどのようなものかを求めて行けば、実際に存在する状態はその固有状態の重ね合わせで得られる。よって、エネルギー固有 値を求めることが今後行うべき計算の第一歩になる。実は量子力学で行う計算のほとんどはこれである。「量子力学の計算ってエネルギー固有値を求めるだけな のか。なんだつまらない」などと思ってはいけない。エネルギー固有値や固有状態が求められれば、それを重ね合わせることでどんな状態の時間発展も計算でき てしまうのだから、エネルギー固有値と固有関数を求める作業が完成すれば、完全な時間発展を求めたことと同じである。
 古典力学でも量子力学でも、目標の一つは「最初こういう状態にあった。時間が経ったらどんな状態に変化するか」という問題を解くことであ る。古典力学では粒子の位置xや運動量pを与えることでその後の運動を計算できた。量子力学では、ある時刻の波動関数全体を与えて、それ以降の波動関数を 計算していくことになる。量子力学の方が計算すべき者が多いことになるが、その計算すべき量を少しでも減らすために役に立つのが重ね合わせとその逆の分解 である。最初にあった状態をエネルギーの固有関数に分解する。各々の固有関数は決まった振動数で時間発展する。時間発展した後の固有関数たちをまた重ね合 わせれば、もとの波動関数がどう時間発展するかがわかるのである。
 エネルギーに限らず、その他の物理量(たとえば角運動量x ×pなど、xやpの組合せで表現できるものでもよい)も同様にψ*とψの間に 対応する演算子をはさみこむという操作で計算できると考えられる。演算子であるということを強調するのに、文字の上にハット( )を加えて、x,p,Eのように書くことがある。
 一般の演算子Aに対して固有関数となる関数をψ123,… とする(すなわちAψi=aiψiのようにいろんな固有値a1,a2,… を出す関数を考える)。一般の波動関数ψは、
ψ = f1 ψ1+ f2 ψ2+ f3 ψ3+…
(9.19)
のように重ね合わせで表現できる。fiは、どの波動関数がどの程度まざっているかを示す係数である。各々の波動関数ψiが 規格化済みだとすると、fiを求めるには以下のようにすればよい。


ψi* ψdx =

ψi*(f1 ψ1+ f2 ψ2+ f3 ψ3+…+fi ψi+…)dx
=
fi ψi* ψi dx = fi

(9.20)
 このように、ψ*iをかけて積分することによって、ψiを含む部分以外はゼロに なっ てくれるおかげで、fiを計算できる。これはさっき証明した「異なる固有値を持つ固有関数は直交する」という性質のおかげである7。この計算法は、波動関数をいろんな形 で表示する時に役に立つ(フーリエ変換はまさにこの計算法の一例である)。
 この後、いろんな波動関数をいろんな表現で表していくことになる。たとえばエネルギーの固有値を使って分解したり、角運動量の固有値をつかって分解した り する。そして分解した各成分を調べれば、現実にそこにある波動関数(一般には各成分が重ね合わされたもの)の運動を知ることができる。

 なんと残念なことにここで時間切れ。以降は後期の「量子力学」で補充する ことになります。

9.3  期待値の意味で成立する古典力学・交換関係

 すでに説明したように、量子力学においては力学変数がψ(x,t)であることに注意しよう。つまり量子力学においては物理法則(この場合シュレーディン ガー方程式)にしたがって時間発展していくものはxやpではなくψである。そして、物体の位置だの運動量だのは、ψの状態から導かれる2次的な量である。
 つまり、波動関数の中には「座標」「運動量」「エネルギー」など、古典力学ではおなじみの(比較的目で確認しやすい)物理量が埋め込まれているわけであ る。古典力学では目で見えていた「座標」が量子力学では「期待値」に置き換えられてしまう。古典力学での`運動'は、「xやpの値が変わる」ということで あったが、量子力学での`運動'は、「ψの形が変わることによってxやpの期待値が変わる」ことの結果として表れる。
 では、期待値 < x > はどんな"運動"をするのだろうか。それを調べるために、時間微分[d/dt] < x > を計算してみよう。節でもハミルトニアンが[(p2)/2m]+V(x)である場合について計算して、m[d/dt] < x > = < p > という結果を得た。今度はより一般的なハミルトニアンの場合で計算してみる。この時微分されるものはxではなく、ψである(時間の関数になっているのはψ である)。シュレーディンガー方程式ihbar[∂/∂t]ψ = Hψと、シュレーディンガー方程式の複素共役である−ihbar[∂/∂t]ψ*=(Hψ)*を 使いつつ計算を行うと、


d
dt

ψ*(x,t)xψ(x,t) dx =


( ∂ψ*(x,t)
∂t
x ψ(x,t) + ψ*(x,t)x ∂ψ(x,t)
∂t
) dx
=

1
−ihbar

( ( Hψ(x,t) )* xψ(x,t)−ψ*(x,t)x ( Hψ(x,t)) )

(9.21)
 ここで、ハミルトニアンがエルミートであると仮定する。すなわち、

(Hφ(x,t))*ψ(x,t) dx = φ*(x,t) Hψ(x,t) dx
(9.22)
という性質を持っているとする(ψ,φは任意の関数)。Hはx微分を含む演算子であるから、これは自明な関係ではない。実際物理的な状況で出てくるハミル トニアンはエルミートになっている。
 この仮定を使うと、


d
dt

dx ψ*(x,t) x ψ(x,t)
= 1
ihbar

dxψ*(x,t)(x H−Hx)ψ(x,t)

(9.23)
という形に式をまとめることができる。ここで気をつけなくてはいけないことはxH−Hxは0ではないということである。なぜなら、たいていの場合、Hは [(p2)/2m]を含んでいるが、pは−ihbar[∂/∂x] のような微分演算子であるからである。
 以後の計算で、xH−Hxのような演算子の順番を変えて引き算したものがよく出てくる。そこでこれを
[A,B]=AB−BA
(9.24)
のように記号で書いて「AとBの交換関係」(commutation relationまたはcommutator)と呼ぶことにする。[A,B]=0の時、すなわちAB=BAの時、「AとBは交換する」と言う。
 まずxと[∂/∂x]の交換関係を計算しよう。任意の関数をfとして、
[x,
∂x
]f = x
∂x
f −
∂x
(xf) = x ∂f
∂x
( f+ x ∂f
∂x
) = −f
(9.25)
となるので、演算子の部分だけを取り出すと、
x
∂x

∂x
x = −1
(9.26)
と書くことができる。時々、この式を見て、「第2項が−1になるのはわかるが、第1項はどうすればいいのだろう?」と悩んでいる人がいるので注意しておく が、この式は演算子に対する式なので、後ろに「演算されるもの」が(なんでもいいから)存在していないと意味をなさない。したがって第2項の頭にある微分 [∂/∂x]は、後ろのxだけではなく、「さらにその後ろにある何か」も微分する。その部分が第1項とキャンセルするのである。(9.26)は、(9.25)から本来存在していたfを省略したものであることを 忘れてはならない。
 交換関係の記号を使って書くと
[x,
∂x
] = −1
(9.27)
である。これから
[x,p]=[x,−ihbar
∂x
] = ihbar
(9.28)
である。このxとpの交換関係は量子力学において非常に重要な式である8



[問い9-4] 交換関係に関する、以下の公式を証明せよ。
  1. [A,B+C]=[A,B]+[A,C]
  2. [A,BC]=B[A,C]+[A,B]C
  3. [A,Bn]=nBn−1[A,B]      (ただし、[A,B]がBと交換する場合)
  4. [A,f(B)]=[df(B)/dB][A,B]     (た だし、[A,B]がBと交換する場 合)



 以上のような公式を使うと、量子力学の計算を少しずつ簡単にしながら実行することができる。
 上の問題の第2問の式[A,BC]=B[A,C]+[A,B]Cについては、「積BCと何か(今の場合A)との交換関係を取るときは、前にあるもの(今 の 場合B)を前に出して後ろにあるもの(今の場合C)を交換関係の中に残したものと、後ろにあるもの(今の場合C)を後ろに出して前にあるもの(今の場合 B)を前に出したものになる」と覚える。「前にあるものは前に、後ろにあるものは後ろに出す」ことが大事。こうしないと演算子の順番が狂う。
では、xH−Hx=[x,H]を公式を使って計算していくと、
[x,H(x,p)] = [x,p] ∂H
∂p
=ihbar ∂H
∂p

(9.29)
となる。 これを代入すれば、

d
dt
< x > = <  ∂H
∂p
>
(9.30)
が成立する。これは正準方程式のうち一方が、期待値の意味で成立していることを示している。



[問い9-5] 同様に[d/dt] < p > を計算し、もう一方の正準方程式も期待値の意味で成立していることを示せ。



 一般の物理量演算子A(p,x,t)(時間にもあらわに依存している)のようにx,p,tの関数として書けるので、この演算子の期待値 < A > を考えることができる。その時間微分 [d/dt] < A(p,x,t) > は

d
dt
< A(p,x,t) > = <
∂t
A(p,x,t)+ 1
ihbar
[A,H] >
(9.31)
となる。
このようにして、古典力学の内容は(期待値の関係として)シュレーディンガー方程式の中に含まれている。よって波束の広がりが小さいという近似を考えれば 量子力学と古典力学は一致する。水素原子の問題などでは量子力学は古典力学では出せない結果を出す。つまり、量子力学は古典力学を全て含みつつ、より広い 範囲に適用できるのである。

9.4  演習問題(前回掲載しなかったもの)

[演習問題9-2] 交換関係に関する、以下の公式を証明せよ。

[A,[B,C]]+[B,[C,A]]+[C,[A, B]]=0   (この式をJacobiの恒等式と呼ぶ)
[演習問題9-3] (9.31)を証明せよ。
[演習問題9-4] AB+BAを{A,B}と書いて「反交換関係」と呼ぶ。反交換関係についての以下の公式を証明せよ。
  1. {A,B+C}={A,B}+{A,C}
  2. {A,BC} = −B[A,C]+{A,B}C
  3. [A,BC] = −B{A,C}+{A,B}C
[演習問題9-5] 古典力学では、エネルギーの原点は任意であって、E→ E+E0のようにエネルギーを定数だけず らしても物理的内容は変わらない。しかし、波動関数の場合、エネルギーが変われば振動数が変わってしまう。エネルギーをずらす前の波動関数をψ(x,t) とすると、ずらした後の波動関数はexp[ −[i/hbar]E0] tψ(x, t)となるだろう。量子力学でこのような波動関数の置き換えを行うと、物理的内容は変わるだろう か、変わらないだろうか。

Footnotes:

7ただし、同じ固有値 を持つ固有関数が複数個あるような場合には少々話が複雑である(いずれ出てくるので注意)。このような場合、「波動関数が(あるいは状態が)縮退 (degenerate)している」と言う。
8物理の各分野で 「もっとも重要な式を選べ」と言われたとする。力学ならニュートンの運動方程式f=ma、電磁気ならマックスウェル方程式、熱力学ならdU=TdS−PdV、統計力学ならS= klogWであろうが、量子力学ならば[x,p]=ihbar がもっとも重要な式といえる。この式の重要性は、量子力学をある程度勉強していくうちに実感していくだろう。

試験の日程について


 この授業の試験は、8月4日(金曜日)の4限に行います。必ず、受けるよ うに。

 なお、この試験で成績F(不可)を取った人は、一週間後の8月11日(金 曜日)の4限の追試を受けてください。
 追試で満点であっても成績はCです(今年から5段階評価となったので、C は去年までの「良」に対応する)。

 さらに追試でも成績Fの人は、9月25日〜28日の補習を受けて、その後 に9月29日の追々試を受けてください。
 追々試で満点であっても成績はD(去年までの「可」です)。
 できれば、追試や追々試の必要なしにみんな合格してくれる ことを祈ります。


学生の感想・コメントから

 (あまりにたくさんの人が)テストがんばります。
 思わず、前に買っておいたけどあまり使ってなかった「がんばりましょう」 の判子を持ってきて押してしまいました。

 (しかし一部の人は)追試がんばります。
 おいおい、まず本試験でしょうが。

 なんてとしても追試でDを取って夏休みを迎えたいです。
 おいおい、「なんとしても」とねらって追試でDかよ〜〜〜(評価は ABCDFの5段階で、Fが不可です念のため)。

 (さらに一部の人は)補習よろしくお願いします。
 おいおい、本試験と追試終わってから補習でしょうが。

 量子力学では、今までの考え方と違うことがたくさんあって驚いた。
 驚いてもらうことも、この授業の目的の一つでした。

 観測された結果で波の形が変わるのは、結果から元の波の形を予想するからですか?
 いえ、違います。人間が予想したり推定するのとは関係なく、ほんとに波の 形が変わってます。人間でなく、機械や石ころにあたっても、波動関数は収縮するのですよ。

 a,b同時に2個観測することはないのですか?
 後期にちゃんとやりますが、物理量によっては同時に観測できないものもあ ります。x方向の運動量とy座標とか、そういう互いに関連のない二つなら、同時測定が可能です。そうじゃないもの(x方向の運動量と、z軸回りの角運動量 とか)は同時測定できません。先に測定した方の結果で波動関数が収縮してしまうので、測定順序が違うと答が変わります。

 不確定性関係って、観測しようとすると観測誤差が大きくなるんだと誤解していました。
 そういう現象もあるにはあるのですが、それは本来の不確定性関係とは別の 種類のものなのです。

 テストの点数も不確定にしてください。
 それじゃいつまでも単位出ませんよ(^_^;)。

 時間にも不確定があると聞いてますます混乱してます(複数)
 あれは少しわかりにくい概念だと思います。基本的には「時間に不確定があ る」というよりは「波動関数の時間変化が鈍くなる」という感じでとらえた方がいいかもしれません。波動関数の時間変化がゆっくりしたものだから、何かの現 象がいつ起こるのかを予言するのが難しくなる。

 授業中の先生の横顔はとても楽しそうです。
 はい、とても楽しいです。今日みたいに面白い質問が出ると特に。

 波動関数、全部xで積分しているのはなぜだろうと思いました。
 今、1次元の問題しか考えてないので、yやzには出る幕がないのです。後 期では、y,zはもちろん、r,θ,φもちゃんと出てきます。

 多世界解釈では、ヤングの実験の干渉をどう説明するのですか?
 粒子が「暗」のところにやってくる世界は、世界どうしの干渉で消え去って いると考えます。だから、暗のところに粒子がやってくるところは観測されないのです。

 「縮退」の話は何か気持ち悪い。波が重なった状態で観測されるというのが受け入れがたいで す。
 実際のところ、波動関数そのものは観測できないので、重なった波が見える わけじゃないですよ。


File translated from TEX by TTHgold, version 3.63.
On 21 Jul 2006, 12:59.