相対論講義録2005年第2回


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 前回のアンケートで電磁気に対する知識がだいぶ足りないことが判明したので、急遽「2ページの図でわかるマックスウェル方程式」のプリントを作った。以下がそれ。

 マックスウェル方程式なんて知らない(あるいはよく覚えてない)、という人のために、少々補足をしておく。マックスウェル方程式というのは、

div
D
 

=
ρ


div

B
 

=
0


rot
E
 

=

t


B
 



rot
H
 

=


j
 
+
t


D
 


という4つの式である。細かい内容は別として、この式の意味するところを述べておくと、 ということになる。

 ここで予想した通り、「divとrotって何なんでしょう?」という質問が来たので、「div,rot,gradの意味」にあるような話をしゃべった。リンク先にまとめてあるので、復習したい人はそっちを読んでください。
 電磁波は次のようなしくみで発生する。
電磁波の発生する様子の図 テキストでは図の(3)の「電場」を「磁場」と間違ってました。左のように訂正すべし。

(1)ある場所に振動する電流または電束密度が発生する(たとえば電波のアンテナなら周期的に変動する電流を流している)。
(2)電束密度の時間変化により、周囲に磁場が発生する(rotH=j+[∂/(∂t)]D)。
(3)周囲の空間の磁場が時間変動すれば、それに応じてさらにその周囲に電場が発生する(rotE=−[∂/(∂t)]B)。
以上がくりかえされることにより、空間の中を電場と磁場の振動が広がっていく。
 マックスウェルは以上の方程式を解くことにより、実際に電場と磁場が波となって進行することを導き、それこそが光の正体であると考えた。真空中での電磁波の速度は光の速度cそのものである。

 このようにして光の速度を出す計算は、初等量子力学の演習問題としても出しているので、そっちも参照しておこう。

 したがって、マックスウェル方程式が実験的に確認されていることは間接的に電磁波(光)の速度がcであることを保証することになる。だからこそ、光速度不変の法則とマックスウェル方程式が座標変換に対して不変かどうかということが結びつく。そしてそれこそ、電磁気学に相対性理論が必要になる理由であるとも言える。
rotを図で示す なお、図ではrotがゼロでない状態の電場を、まるで渦を巻いているかのように書いたが、 rotがゼロでないからと言って別に渦を巻く必要はない。もともとrotの定義は左の図のように、微小な四角形の辺の上を一周した時、ベクトル場が働く力 だとしたらどれぐらい仕事をしてもらえるかを足し算したもの(最後に四角形の面積∆xyで割る)である。左の図の場合、
(1)x方向に∆x動くから仕事はVx(x,y)∆x
(2)y方向に∆y動くから仕事はVy(x+∆x,y)∆y
(3)x方向に−∆x動くから仕事は−Vx(x,y+∆y)∆x
(4)y方向に−∆y動くから仕事は−Vy(x,y)∆x
となって、この4つの和は
Vx(x,y)∆x+Vy(x+∆x,y)∆yVx(x,y+∆y)∆xVy(x,y)∆x ≅ (∂x Vy(x,y)− ∂y Vx(x,y))∆xy
である。定義がこのようなものだから、下の図のような平面波状態でもrotは存在する。ゆえに電場や磁場の時間微分も存在し、それによって波が進行する。
平面電磁波の進行

 上の図に小さく書き込んである四角の上で電場や磁場のrotを計算するとプラスになったりマイナ スになったりする。電場のrotは磁場の時間変化に、磁場のrotは電場の時間変化に関係している。rotの符号から時間変化の符号を考えると、波が右に 移動していることがわかるはず。

第2章 ガリレイ変換と運動方程式

 第1章の前半では、力学の法則が相対的であること、つまり絶対空間が存在しない(少なくとも、感知できない)ということを説明した。この章では、そのことを数式を使って考えていく。そのために、座標系の変換ということについて勉強する。
 物理を記述するにあたって、座標系は大事である。というより座標系を置かないと何も始まらな い。相対性、すなわち「見る立場が違っても物理法則は変わらない」ということは数学的言葉を使えば「座標系を変換しても物理法則は変わらない」と表現でき る。よって相対論を理解するには、座標系を変換する(ある座標系から別の座標系に移る)ということの意味を理解することが必要である。この章と次の章では 相対論以前のニュートン力学の範疇において、座標変換と力学の法則の関係を整理しておくことにする。

2.1  座標系と次元

 座標系というのは、物体の位置を指定するための道具である。特に相対論では、4次元、すなわち4つの座標を使って運動を記述するということが大事になる。「次元」という言葉はずいぶんいろんな意味に使われていて1、 一般社会においては「4次元」という言葉は特に謎めいたイメージを持たされている。しかしここで言う「次元」というのは「いくつの数を指定すれば系の状態 が決まるか」という意味であって、それが「4」であるということは、別に不思議なことではない。例えば待ち合わせをする時、「じゃあ、生協食堂前で会お う」では待ち合わせはできない。かならず「何時に」ということも決めるはずである。「生協食堂前」を指定するのに数字を使うとしたら、3つの数字が必要で ある2。これに時刻を足して4つの数字を指定して始めて待ち合わせが成立する。つまりこの場合必要な数字は4つ。これを「4次元」と言う3
時空間のグラフ
 物体の位置だけを問うのなら、3次元でいい。ニュートン力学の世界では、3次元空間と1次元の時間は完全に切り放されて、別個に存在している。相対論的 世界では、空間と時間の間に少し関係が生じてくる。そのため、相対論の話をする時には4次元的記述が好まれる(と、今言ってもわからないだろうけどれど、 授業が進むにつれてわかってくるはずである)。
 以上のように、4次元と言っても別に怖いもの でもなんでもなく、物体の位置と時間を指定するには4つの座標が必要だ、と言っているだけのことである。我々の住んでいるこの宇宙は3次元空間+1次元の 時間で、「4次元時空」と呼ばれる。時間だけは多少違うので、「3+1次元時空」という呼び方をする人もいる4。だから、「4次元」と言われただけで不必要に「難しい話が始まる」と緊張する必要はない5
座標の取り方はいろいろあるが、ここでは一番簡単な直交座標、すなわち互いに垂直な空間軸x,y,zをとることにしよう。これに時間tをあわせて、座標は4 つ(x,y,z,t)である。ある一つの物体の運動は、この「4次元時空」の中の線で表されることになる。図の「ある時刻のある粒子の位置」を表すには4つの数字が必要だということである(図ではz座標を省略している)。なお、「ある時刻の宇宙」はこの4次元時空のうち、t=(ある一定値)に限った部分ということになる。ほんとは3次元分の広がりがあるが、図ではz軸が書かれていない分、2次元の面のように描かれている。この面を「面のようだが3次元分ある」ということで「超平面」(hyper surface)と呼ぶ。

2.2  1次元空間の座標変換

 簡単のため、まず空間座標はxだけ考えて、y,zは無視して考えることにする。つまり1次元空間、時間を合わせて2次元(1+1次元)時空である。1次元での空間座標はx一 つで、どこかに原点を選び、あとは軸の向き(1次元なので左か右か二つに一つ)を選べば、原点から軸の正の方向に何メートル行った場所か、ということで位 置を指定できる(ここでは「メートル」と書いたが、もちろん「フィート」でも「尺」でも「オングストローム」でも「光年」でも支障はない)。
原点の移動
 まず簡単な座標変換として、原点の移動を考えよう。新しい座標系x′系の原点が古い座標系x系で表してx=bという場所にあるとする。座標系の向きと目盛りの幅は同じであるとすると、この二つの座標系はx′=xbという関係で結び付いていることになる。この場合、二つの座標原点は互いに運動していない。x′座標系の原点はx座標系の原点よりも右(つまり、正の方向)にあるのだが、式の上ではx′=xbと引き算される形になっている。この式になっていると、x′=0がx=bに対応するのだからもちろんこれでいいのだが、勘違いしてx′=x+bとやってしまうことが多いので注意しよう。
ガリレイ変換の図
 次に座標の原点自体が刻一刻と等速度vで移動している場合を考える。この場合、b=vtと考えて、
x′=xvt
という変換則に従っている。この座標系x′は、いわば速度vで走る電車の内部の座標系である。電車内でみると静止しているx′=0という点は、外からみると、x=vtで表される、等速運動して移動している点に見える。
電車の座標系
ここであげた式ではt=0でxx′の原点が一致しているとしたが、もちろん一般には一致する必要はなく、 x′=xvtb でよい。この形でもx′座標系の原点がx系でみると等速運動しているという点は同じである。
この時、x系とx′系で、時間は変化しないと考えられるので、
t′=t
(2.1)
である。あたりまえのことのようであるが、これは重要な(後で変更をせまられることになる)式である。
 このような互いから見て、相手の座標原点が等速で運動しているような座標系の間の座標変換をガリレイ変換と呼ぶ。

2.3  速度、加速度のガリレイ変換と運動方程式の不変性

 さて、「電車内でも外部でも同じ物理法則が成立する」ということを、今考えたガリレイ変換と力学の法則を使って確かめよう。
ニュートンの運動方程式は(1次元であれば)
m d2 x
dt2
= F
(2.2)
と書ける。ガリレイ変換の一般式x′=xvtbという変換式を微分していくと、

x′=xvtb

dx
dt
= dx
dt
v

d2x
dt2
= d2x
dt2


(2.3)
となるから、運動方程式の形はx系でもx′系でも変化しない。つまり、互いに等速運動している二つの観測者は、どちらも同じ運動方程式を使って運動を記述できることになる。運動方程式に加速度という「速度の変化」だけがあらわれていることから、当然の結果である。

 そのvは時間に依存しないのですか?
 しません。このvはx系でもx′系の相対速度で、今考えているのは「x′系の原点がx系で見ると等速直線運動している場合」だからです。そうでない場合はもちろん運動方程式は一致しません。後で説明した遠心力やコリオリ力、あるいは慣性力と呼ばれる力は、運動方程式が一致しなくなる場合です。

 二つの座標系で、同じ運動を記述してみる。x系とx′系は原点が一致しているものとする(上のb=0)。今x系で時刻t=0に原点に静止していた質量mの物体に、力Fを∆tの間加え続けたとする。x系およびx′系で成立する運動方程式は
F = m d2 x′(t)
dt2
  または   F = m d2 x(t)
dt2

(2.4)
と書ける。 これをtで2回積分すると、


d2 x(t)
dt2
=

F
m


d x(t)
dt
=

F
m
t+C1
x(t)=

1
2

F
m
t2 +C1t +C2

(2.5)
となる(C1,C2は積分定数)。
 x系で考えるならば、x(t)の初期値(平たくいえばx(0))は0、初速度([(dx(0))/(dt)])も0であるから、C1,C2はともに零となる。
 x′系での運動を考えるには、二つの方法がある。今求めた解をガリレイ変換するという方法と、x′系での初期値を用いてC1,C2の計算をやり直す方法である。ガリレイ変換ならば、
x′(t)=x(t)−vt = 1
2

F
m
t2vt
(2.6)
と公式どおりに求まる。x′系での初期値を考えるならば、x系で静止している、ということはx′系でみるとvの速さでバックしているということになるので、x′(0)=0,[(dx′(0))/(dt)]=−v となって、C1=−v,C2=0となる。結果は、上の式と同じである。
加速する車と等速運動する自転車のグラフ
 二つの結果を、x系とx′系でグラフにしてみたものが上の二つの図である。x系で見ると「静止した状態の物体が速度を少しずつ増しながら離れていった」と見える運動であるが、x′ 系でみると、「最初左へ走っていた物体がだんだん遅くなり、やがて止まって今度は右向きに走りだし、自分の前を通りすぎてどんどん右へと速度を増しながら 離れていった」ということになる。等速運動している自転車を、後から発車した自動車があっという間に追い抜いていった、という状況である。

 「等速運動している自転車を、後から発車した自動車があっという間に追い抜いていった」状況のアニメーションのjavaアプレット、とりあえず作った(授業では見せなかったが)。見てみたい人はこちらをどうぞ。

 上のグラフで、t=t′なのにt軸とt′軸が同じ軸でないことをおかしく思う人もいるかもしれないが、t軸というのはx=0で表される線であり、t′軸というのはx′=0 で表される線であることに注意せよ。つまりt軸とt′軸が同じ方向を向かないのはxx′にずれがあるからなのである。この二つのグラフは、グラフを水平方向(x方向)に、高さ(t座標)に比例した距離だけ横にずらしていくことによって互いに移り変わる。つまり、3+1次元空間のうち、3の部分(空間あるいは超平面)を時間に応じて動かしていくという変換を行っていることになる。



[問い2-1] x′座標系で見て速度V′で動いている物体に関してはx′=Vt′+b(bは定数)が成立する。これとガリレイ変換を使って、x座標系でこの物体がどのような速度を持つかを計算せよ。



↑今日の宿題。とっても簡単(^_^;)。

 前の章で強調した、「絶対静止しているかどうかは判定できない」というのは、今示したように、互いにガリレイ 変換で移ることができる座標系であれば、どこでも同じ法則が成り立っているからである。物理法則(この場合ニュートンの運動方程式)にあらわれるのは加速 度であり、上のグラフでいえば、物体の運動を表す線の傾きがどの程度変化しているか、つまりは線の曲がり具合いである。ガリレイ変換は線の傾き(つまりは 速度)を一定値だけ変えるが、その時間的変化量(曲がり具合い)を変えない。そのため、物理法則は変わらない。
 今あなたが電車外にいて、「静止しているのは私である」という仮定のもとに運動方程式を解 いて、ある物体の運動を求めたとする。しかし電車内にいる誰か別の人が「静止しているのは俺の方だ」と言って同様のことを行ったとしても、結果は同じにな る。ではあなたとこの人の、どっちが正しいのか。もちろん、判定不可能である。
 ガリレイ変換の物理的意味は、一つの物理現象を見る時、観測者が運動しながら見るとどう見え 方が変るか、ということにある。ガリレオ・ガリレイの時代と言えば、天動説から地動説への変換の真っ最中であった。つまり、「地球が静止していると考えて 天体の運動を考える」立場と「太陽が静止していると考えて天体の運動を考える」立場のどちらが正しいのかが論争の焦点となっていた。ガリレイ変換は等速直 線運動どうしの変換であるから太陽と地球(円運動している)には直接当てはまらないが、地球の運動方向の変化が十分小さくなるほど短い時間で近似して考え れば「地球が静止している」座標系と「地球が運動している」座標系の変換はガリレイ変換で表せる。

 地球が円運動している影響は遠心力とかで見えないんですか?
 見えてます。たとえば赤道の方が物は軽くなるけど、それは遠心力のせい。また、地表面の回転速度が緯度によって違うせいで、コリオリ力が働いたりもする。円運動はちゃんと感知できます。我々に感知できないのは、等速直線運動の場合です。

 と、ここまでの話を聞くとガリレイ変換で何が悪い、という気分になるが、ガリレイ変換では現実を ちゃんと表してない、だからローレンツ変換を使いましょう、というのが今後のこの授業の流れである。ガリレイ変換がだめになる最初の兆しは今日の最初に話 したマックスウェル方程式を使って計算すると、光速度一定という答えが出るということ。

学生の感想・コメントから

 磁力線はNから出てSに入るのではなく、ループしているということだったが、磁気の発生源は何ですか?
 磁石になっている物質の中の原子の中に円形電流(電子の運動などが原因)が流れているのです。つまり原子がミニ電磁石状態になっていると思ってください。

 水面に浮かべたボートが正方形を描くとき(注:「div,rot,gradの意味」でrotの説明のところで使った比喩)、仕事が0でない場合ってあるんでしょうか?
 水に何かの原因で渦ができていた場合など、渦方向に行くと+の仕事、逆方向なら−の仕事を水からしてもらうことになります。

 この世界はいったい何次元でできているのですか?
 目に見える限りで判断すれば3次元の空間でしょう。ただし、目に見えないような次元が他にあるのでは?という話はいろいろあります。

 「どこでもドア」はどうなっているのでしょう?
 それは4次元ポケットより難しい質問だなぁ。

 3次元空間を使えば、4次元を図に書くことはできますか?
 かなり無理がありますね。「互いに直交する4つの軸」を想像してみてください。3次元の中でも、想像することも難しい。

 コリオリ力って、風呂とかの水の栓抜く時に渦ができる原因ですよね?
 違います。その場合のコリオリ力の効果はものすごく小さいので、渦ができる原因にはなりません。計算してみてください。台風が渦を巻くのはコリオリ力のせいですが、あれは台風がばかでっかいから効果が現れるのです。


Footnotes:

1「その式、左辺と右辺で次元が違うじゃないか」「3次元空間で考えましょう」「そんな次元の低い話はしてないんだよ!」全部、意味が違うのに「次元」という同じ言葉が使われている。
2 例えば、「北緯何度、東経何度、標高何メートル」。あるいは「ここから東に何メートル、南に何メートル、下に何メートル」。
3「空中に浮いて待ったり、地面に潜って待つことなどありえないのだから高さや標高は省略してよい」と考えると次元は一つ減って3次元になる。ただしこの場合1階と2階で互いに待ちぼうけを食わされる可能性がある。
4この話をすると必ず「ドラえもんの4次元ポケットはどうなっているのですか」という質問が出る。そんなことは藤子不二雄先生に聞いてほしい。おそらく、「4次元ポケット」の4次元は、空間だけで4次元なのだろうとは思うが。
5たまにいるのだ、「4次元ってのはものすごいことなんだ」と思い込んでいる人が。そういう人はむしろ、この話をきいてがっかりすることになる。

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On 26 Apr 2005, 12:03.