波動論2006年度講義録第6回


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レポートについて【重要】

 第2章の章末演習問題2-2の〆切は12月1日(金)までに伸ばします。

 理 307の前野の部屋まで持ってきて、黒板で解いて見せてください。これは評価の一部となります。〆切を過ぎると減点します。


 注意!!:レポートを出すだけではダメです。かならず黒板で説明をして、質問を受 けること。


  先週は「とりあえず連成振動の問題を解く」ところまでだったので、今週は
連成振動のアニ メーションを見ながら、解の物理的解釈から。

3.1.2  出てきた答を解釈しよう


 まず、C1に比例する項の振動が起こっている時の様子を図示すると、上の図のようになる。この場合、x1=x2な ので、二つのおもりは同じ運動をする。図の破線で囲った部分は一体となって運動することとなる。
この場合の角振動数はω1=√{[k/m]}なのだが、そうなる理由は次のように理解できる。
まず、一体となっている部分は全体で一つの動きをするのだから、これを質量2mのでっかい物体だと考えることができる。そうすると、「質量2mの物体がば ね定数kのばね2本に挟まれている」という問題だと考え直すことができ、その場合の運動方程式は2m[(d2 x)/(dt2)] =−2kxであるから、ω = √{[2k/2m]}=√{[k/m]}。
別の考え方としては、中央のばねは伸びても縮んでもいないのだから、ないのと同じと考えて撤去する。すると、「質量mのおもりがばね定数kのばねにつなが れている」という状況が二つある(しかも、たまたまその二つの運動が同じタイミングで起こっている)ということになる。この場合は運動方程式はm[(d2 x)/(dt2)]=−kxが2本ということになる。




 次に、C2に比例する振動の図を描くと、上のようになる。この場合はx1=−x2な ので、左右対称な運動になる。図の破線は、対称軸を描いた。二つのおもりは、この線を対称に鏡に映したように反対の動きをする。角振動数は√ {[3k/m]}である。
 角振動数がこのようになる理由は、以下のように理解できる。
 左右対称であるから、左半分だけを見て運動を考えよう。質量mのおもりがあり、ばねが2本つながれている。左側はばね定数kのばねである。右側はもとも と ばね定数kのばねであったが、今左右対称だということで左半分だけを考えた時に、半分の長さに切ってしまったと考えることができる。中央(破線の通るとこ ろ)は動かない点になっていて、ここに釘が打たれているのと同じことであるから、実際このばねは長さ半分のばねだと思ってよい。
 材質が同じで長さが半分になると、ばね定数は2倍になる。半分になると勘違いする人がたまにいるが、そうではない。ばね定数の定義は(のばすのに必要な 力) ÷(のび)である。20センチのばねを1センチ伸ばすのと、同じ材質で10センチのばねを1センチ伸ばすのなら、もともと10センチのばねを1センチ伸ば す方がたいへんである(2倍の力がいる)。逆に考えると、20センチのばねを2センチ伸ばすのと、10センチのばねを1センチ伸ばすのは同じ力でいいので ある。
そう考えると、おもりの右側(図の中央)のばねはばね定数2kのばねと同じ働きをする。よって運動方程式はm[(d2 x)/(dt2)] = −3kxとなり、ω = √{[3k/m]}ということになる。
実際に起こる運動はもちろん、この二つの重ね合わせである。具体的にどのような運動が起こるのかを考えていこう。
一般解である(3.11)は、未定のパラメータC1,C2を 持っていた。初期条件によってC1,C2はいろんな値を取る。
 
C1=C2=A/2とした場合の解(実数部を取った)

x1
=

A
2
(cosω1 t+cosω2 t)

(3.12)

x2
=

A
2
(cosω1 t−cosω2 t)

(3.13)
を上のグラフにしめした。この解はt=0でx1=A,x2=0で、どちらも初速度0という場合に対応してい る。
 複雑な振動になっているが、cosω1t,cosω2 tで表される二つの関数はそれぞれ単振動しているだけである。その二つの単振動の周期が違うために、合成された(実際に目に見える)運動であるx1,x2は 複雑なグラフとなる。
 このグラフでもう一つ気をつけておいて欲しいのは、x1の方が大きく振動している時、x2の方の振動は小 さ くなっているということである。これはエネルギー保存を考えると納得できる話である。当然、おもりの片方だけをみたらエネルギーは保存していない。両方の おもりの運動エネルギーと、3本のばねの位置エネルギー全ての和は保存する。

3.2  振動の分解-モード

3.2.1  別の解き方-変数を取り直す

 前節で考えた問題を、別の解き方で解けないか考えてみよう。今出した答を見てみると、解は二つで、一方(C1の項)はx1とx2が 同時に振動する解、もう一方(C2の項)は逆に振動する解である。そこで「x1+x2とx1−x2を 変数にすれば方程式が簡単になるのではないのか?」という発想が浮かぶ。
(3.3)+(3.4)という計算を行うと

m d2 (x1+x2)
dt2

=
−k x1 − kx2

(3.14)
という式を、 (3.3)−(3.4)という計算を行うと

m d2 (x1−x2)
dt2

=
−3k x1 + 3kx2

(3.15)
という式を得る。

 後で気づいたが、ここは[1/√2](x2−x1)= Yとして定義すべきであった。不覚。

 [1/√2](x1+x2)=X,[1/√2](x1−x2)= Yと新しい変数をおけば、

m d2 X
dt2

=
−k X

(3.16)

m d2 Y
dt2

=
−3k Y

(3.17)
となり、解き直すまでもなく、Xが角振動数√{[k/m]}の単振動、Yが角振動数√{[3k/m]}の単振動をするとわかる。
 なお、ここでX,Yを定義する時に√2で割ったのは、後々問題となる「規格化」のためである。実はこの段階では√2で割る必要は特にない。とりあえずこ こ では「割っておくと後でうれしいらしい」という程度で理解しておいてよい。
X,Yは物体の位置そのものを表しているのではない。その意味で座標ではないが、X,Yを変数とすると運動方程式が解きやすくなるので、まるで座標である かのごとく取り扱うと便利である。このように座標であるかのように扱われる変数を「一般化座標」と呼ぶ(名前が示す通り、一般化座標は「座標」を含むが、 「座標でない変数」である場合もある)。この手法は、解析力学を代表とする、いろんな物理の分野で有効に使われている32
 なお、この問題の場合、xG=1/2(x1+x2) という「重心座標」と、xR=x2−x1という「相対座標」の二つの座標で考えるこ ともできる。X,YとxG,xRの関係はxG=[1/√2]X,xR=√2Y である。X,Yを定数倍しても運動方程式(X,Yに関して線型同次である)は変わらないので、上と同様に考えることができる。

3.2.2  「モード」という概念

 実際に起こる運動は、この二つの振動の足し算になり、けっこう複雑怪奇な運動になる。しかし、これをXとYという二つの変数の振動と考えることで、話は 単 純になった。複雑な振動を一個一個の単振動に分けることができる時、一個一個の単振動を「モード」または「基準モード」と言 う(他にも基準振動、正規モードなどという呼び方もある)。複雑な運動はモードごとに分解して考えると理解しやすい。
 なお、初期条件を工夫すれば、片方のモードだけが存在するような振動を作ることができる。たとえば初速度をどちらも0にしてx1(0)=x2(0) =Aという初期条件で出発すれば、ω1の振動だけが起こる(x1(0)=A,x2(0) =−Aとすればω2の振動だけが起こる)。
 ここでエネルギーを考えて、エネルギーもモードごとに分類できることを示そう。運動エネルギーは

1
2
m ( dx1
dt
) 2

 
+ 1
2
m ( dx2
dt
) 2

 

(3.18)
であるが、x1=[1/√2](X+Y),x2=[1/√2](X−Y)を代入すると、

1
2
1
2

( d(X+Y)
dt
) 2

 
+ 1
2
1
2

( d(X−Y)
dt
) 2

 
= 1
2
m ( dX
dt
) 2

 
+ 1
2
m ( dY
dt
) 2

 

(3.19)
となり、これは質量mの2個の物体があるのと同じ式である。なお、同じ計算を重心座標xGと相対座標xRで やると、

1
2
×2m ( dxG
dt
) 2

 
+ 1
2
× m
2

( dxR
dt
) 2

 

(3.20)
という形になる。この式の([(dxG)/dt])2の前の係数の質量に対応する部分が2mなのはxGは 「物体二つを一体として考えているので、質量2mの物体のようなものなのだ」と解釈できる。xRの方は質量m/2と いうことになる。これは「換算質量」と呼ばれる概念33で ある。
 また、位置エネルギーは

1
2
k(x1)2+ 1
2
k(x2−x1)2+ 1
2
k(x2)2
(3.21)
であるが、これにも代入を行うことで、

1
2
1
2
(X+Y)2+ 1
2
k×2Y2+ 1
2
1
2
(X−Y)2 = 1
2
kX2 + 3
2
kY2
(3.22)
となり、ばね定数kのばね(のびX)とばね定数3kのばね(のびY)がいるのと同じだけの位置エネルギーを持つことになる。
 このようにエネルギーの面でもX,Yは完全に分離する。x1,x2で考えていたのでは二つの変数が影響し あって変化する、非常にわかりにくい運動なのだが、X,Yで考えれば単に二つの単振動が重なっているだけということになる。このようにして基準モードを考 えることで複雑な運動を単純な(かつ、互いに無関係の)運動の組み合わせで考えることができる。特に波動を考える場合、考えている変数をどのようなモード にわけて考えるかということは重要になる。

3.3  より一般的な、変数の取り直し-行列の利用

 3.1節で考えた問題は比較的運動方程式が単純で、すぐに「どのように変数(モード)を取り直せば 問 題が解きやすいか」を見つけることができた。しかし一般の問題ではそれを見つけるのは簡単とは限らない。しかし、ここで行列を使って運動方程式を表現して おくと、モードを求める計算を比較的容易に(というよりは、パターン化された手続きとして)行うことができる。
 「行列」と聞くと「あ、僕それ苦手ですから」とか「これまで行列は避けて通ってきたんで…」と尻込みしてしまう人が多いのだが、そんなこと言っていては 物 理はできない34。これからも何度も 使うことになる(そもそも、高校数学や線型代数で行列を習ったのは、こういうところで使うためだ)のだから、行列の使い方にも習熟しておかなくてはいけな い。

3.3.1  最初の問題を行列を使って解く

 行列の考え方に慣れるために、もう一度元の方程式

m d2 x1
dt2

=
−2k x1 + kx2

(3.23)

m d2 x2
dt2

=
k x1 − 2kx2

(3.24)
を解いてみよう。まずこれを行列で表すと、
m d2
dt2

(
x1
x2
) = (
−2k
k
k
−2k
)
(
x1
x2
)
(3.25)
となる35。左辺は
(
x1
x2
)
にmと微分演算子[(d2)/(dt2)]がかかった形に、右辺は
(
x1
x2
)
に行列
(
−2k
k
k
−2k
)
がかかった形にまとまった。つまり、どちらも、
(何か)×(
x1
x2
)
の形になった。
 このように「変数の部分」とそれにかかる「演算の部分」(左辺では微分、右辺では係数のかけ算)が分離して、「演算の部 分」 が一カ所にまとまった形で書けるのが行列の利点である。これによって、演算の部分が簡単になるように変形していくことができる。
 さて、我々はすでに、X=[1/√2](x1+x2)およびY=[1/√2](x1−x2) という変数を使うと問題が簡単になることを知っている。Xに関する方程式を作った時は、二つの式を足して√2で割った。これは実は、上に書いた行列の式 に、前から行ベクトル([1/√2]  [1/√2])をかけたのと同じ計算である。すなわち、

( 1
√2
   1
√2
)
 
× m d2
dt2

(
x1
x2
) =
( 1
√2
   1
√2
)
 

(
−2k
k
k
−2k
)
(
x1
x2
)
(3.26)
である。ややこしげに見えるかもしれないが、「(a b)から[1/√2](a+b)を作る」という計算を

( 1
√2
   1
√2
)
 

(
a

b

)
と書いたに過ぎない。
ここで気がついて欲しいことは、

( 1
√2
   1
√2
)
 

(
−2k
k
k
−2k
) =
(−2 1
√2
k + 1
√2
k   1
√2
k−2 1
√2
k)
 
= −k ×( 1
√2
   1
√2
)
(3.27)
という関係である。つまり、この([1/√2]  [1/√2])という行ベクトル36に後ろから行列
(
−2k
k
k
−2k
)
をかけると、元のベクトルの−k倍になるのである。
固有ベクトルと固有値
 ベクトルにある行列Mをかけた時、結果が元のベクトルに比例するベクトルになる時、そのベクトルをMの「固有ベクト ル(eigenvector)」 と呼び、この時出てくる値λを「固有値(eigenvalue)」と呼ぶ。N×N行列の場合、固有値は最大N個ある。
 対称でない行列の時は行列をどっちから書けるかによって、


の 時「右固有ベクトル」、 (3.28)
の時、「左固有ベクトル」

と区別するが、いまMは対称行列なのでこの区別はない。

 これはつまり、「固有ベクトルがかけられるとわかった時は、行列を単なる 数(固有値)に置き直してもよい」ということになる。つまり複雑な行列を固有値という「ただの数」に変更することができる。これが固有ベクトルを使うと計 算が楽になる理由である。

 右固有ベクトルはどう使うのですか?
 上の方の計算で使ったのは左固有ベクトルですね。この後で、列ベクトル
(
x1
x2
)
を、固有ベクトルで分解する、ということをやるんですが、そこでは右固有ベ クトルを使います。もっとも、ここの話では右と左の区別がない場合しかやりません。
 このことを使うと、運動方程式の変形は以下のように行列で表現できる。


( 1
√2
   1
√2
)
 
× m d2
dt2
(
x1
x2
) =




( 1
√2
   1
√2
)
 

(
−2k
k
k
−2k

)

−k ([1/√2]  [1/√2])  

(
x1
x2
)
m d2
dt2




[
([1/√2]  [1/√2])
 

(
x1
x2
) ]

X 
=
−k


[
([1/√2]  [1/√2])
 

(
x1
x2
) ]

X 

m d2 X
dt2
=
−kX

(3.29)
ここで、行ベクトル([1/√2]  [1/√2])が行列
(
−2k
k
k
−2k

)
の(左)固有ベクトルであったおかげで両辺が同じ形でまとめることができ、Xという変数で表現されるモードを見つけることができた。つまり、「モー ドを見つけること↔固有ベクトルを見つけること」なのである。

同様に、Yに関する方程式を作る行列計算は、


( 1
√2
  − 1
√2
)
 

(
−2k
k
k
−2k

) =−3k ( 1
√2
  − 1
√2
)

(3.30)
を使えば全く同様に、m[(d2)/(dt2)]Y=−3kYを得る。以上の結果をまとめると、
であり、これを一個の行列式





×m d2
dt2

(
x1
x2
) =




(
−2k
k
k
−2k

)
(
x1
x2
)
m d2
dt2

(
X
Y
) =

(
−k
0
0
−3k

)
(
X
Y
)

(3.31)
とまとめて書くことができる。つまり、使う変数を(x1,x2)→(X,Y)と変更することで、運動方程式 を簡単に書き直すことができた。特に、右辺の行列が、
(
−2k
k
k
−2k

)
 から
(
−k
0
0
−3k

)
へと変換され、簡単になったところに注目しよう(これによって運動をモードごとに分解することができた)。
 ここで行われた変数変換は、

(
X
Y
) =


(
x1
x2
)
(3.32)
のように行列で表現できる。右辺から逆算すると左辺になることはすぐ確認できるだろう。これの逆変換は

(
x1
x2
) =



(
X
Y
)
(3.33)
である。の逆行列だからである(このように「逆演 算」を「逆行列」で計算できるのも行列の強み)。
以上で行った計算をもう一度見直そう。元々の運動方程式(3.25)に行列をかけると、左辺 は(X,Y)の式になる。右辺にも(3.33)を代入して、


m d2
dt2
(
X
Y
) =







(
−2k
k
k
−2k
)



(
X
Y
)

(3.34)
となる。右辺の3つの行列の積は、




(
−2k
k
k
−2k
)


= (
−k
0
0
−3k

)
(3.35)
となる。
結局のところ、ここでやった計算は、M=
(
−2k
k
k
−2k
)
という行列を、T=という行列と、その逆行列であるT−1(た またま、今の場合はTと一致した)ではさんで、 T−1M Tという行列を計算し、
(
−k
0
0
−3k

)
という結果を得た、ということになる。この結果T−1MTが対角行列(対角線の部分 以外は0になっているような行列)になったので、結果は単振動の重ね合わせとなったわけである。このように行列Mに対し適切な行列Tを 探してきてT−1MTが対角行列になるようにすることを「M対 角化(diagonalize)する」と言う。
行列を使うと、計算が楽になる。何が楽になるかというと、行列の対角化という作業さえすれば、複雑な連成振動の方程式が、単振動の方程式の集まりになって しまうのである。単振動の方程式になってしまえば後は簡単であろう。

3.3.2  固有ベクトルと対角化

一般的にすべての行列が対角化できるわけではない。実対称行列37で 縮退(意味は後述)がない場合は以下の方法で必ず対角化できる。実対称でない場合についてはこの講義では扱わないことにする(知りたい人は線型代数の本を 読むこと)。
対角化の第一ステップは行列をMとして、

(
 
 
 

M

 
 
 
)
(
v1
v2
:
) (
v1
v2
:
) → (略記して)M
v
 

v
 

(3.36)
となるような列ベクトル
(
v1
v2
:
)
(固有ベクトル)とある値λ(固有値)を求めることである。今やろうとしている計算は、

d2
dt2

(
x1
x2
:
) = (
 
 
 

M

 
 
 
)
(
x1
x2
:
) → (略記して) d2
dt2


x
 
= M
x
 

(3.37)
という方程式を解くことであったが、(3.36)を満たす列ベクトルv をxに代入すれば、

d2
dt2


v
 
= M
v
 

v
 

(3.38)
となって、方程式は[(d2 X)/(dt2)] = λXと本質的に同じであり、単振動の方程式として解ける。
よって、今考えているxがちょうどv と一致していれば、これで問題が解けたことになる。一般の問題では考えている運動のxが うまくvと同じになるとは限らない。だが、線型微分方程式の解は重ね合わせができた。 よって、任意のxをいろんな固有値を持つλ の重ね合わせで表現できれば、問題は解けてしまう。
例えば2個の連成振動の場合、vにあたる固有ベクトルは(1/√2  1/√2)(固有値−k)と(1/√2  -1/√2)(固有値−3k)であった。この二つのベクトルは独立だから、任意の2次元ベクトルはこの二つの和で表現することができる。ゆえに、固有ベク トルで表さ れた振動モードを二つがあれば、どんな運動も表現できるのである。

3.3.3  固有値の求め方

 N×N行列の場合、固有値は最大でN個である。ここではその最大の場合のみを考える。そのN個のλを求める方法を述べよう。
M
v
 

v
 
 → 右辺を移項して、(M−λI)
v
 
=0
(3.39)
という式を作る(ただし、Iは単位行列)。ここでもしM−λIに逆行列があれば、それをかけることで、
(M−λI)−1 (M−λI)
v
 
=0 →
v
 
=0
(3.40)
となってv=0になってしまう。ゆえに、M−λIは逆行列 を持ってはいけない。ということは

det
(M−λI)=0
(3.41)
となる。N×N行列の場合、この式はλに関するN次方程式となり、最大でN個のλが求められるのである。この方程式に重解が出たりするとN個より少なく なってしまうが、ここではそういうことはないとしよう38
M=
(
−2k−λ
k
k
−2k−λ
)
の場合でこのやり方を実践してみよう。

det
(M−λI)= det

(
−2k−λ
k
k
−2k−λ
) =(−2k−λ)2 −k2=0
(3.42)
という方程式が出る。この方程式は (−2k−λ)2 = k2と考えればすぐに、−2k−λ = ±kとなってλ = −2k ±k(すでにもとめた−k,−3kの二つ)が出る。
 この固有値が出れば、方程式がm[(d2X)/(dt2)]=−kXとm[(d2Y)/(dt2)] =−3kYになることはわかってしまう。

 この後、「これで固有値は求まったので、次に固有ベクトルをどう求めるか というと・・・」と話は続くの だが、ここで時間切れ。


Footnotes:

32ハミルトン形式の 解析力学では一般化座標それぞれに対応して「一般化運動量」を定義して考えていく。
33質量Mの物体と質 量mの物体が互いに力を及ぼし合いながら運動している時、一方を止めた座標系で考えると、もう一方の質量がμ = [Mm/(M+m)]になったのと同じ形の運動方程式ができる。これを換算質量と言う。
34こんなことを言う 物理の学生なんて、「注射が苦手でできない看護師さん」あるいは「カンナをかけることを避けて通ってきた大工さん」と同じぐらい、恥ずかしい。プロの道具 を使えるようにならなくては、プロになれない。
35なお、物体の質量 が違う場合は、運動方程式を質量で割った後で行列に書き直すべきである。
36ちなみに「縦が行 ベクトルだったか、横が行ベクトルだったかすぐ忘れる」という人は、「行」という字には水平線が2本入っていることを見て思い出そう。同様に「列」という 字には鉛直線が2本入っている。つまり「行が横」、「列が縦」である。
37m行n列の成分と n行m列の成分が等しい行列を対称行列と言う。特に実数成分の場合「実対称行列」と呼ぶ。
38重解が出る場合 は、同じ固有値を持つ固有ベクトルが複数本あるということになる。こういう場合「縮退(degenation)がある」という言い方をする。以下で扱うの は縮退がない場合のみ。


学生の感想・コメントから

  行列の便利さがわかったので嫌わずに勉強しようと思う(多数)。
 そうです。勉強して使いこなしましょう。

 線型代数で習った時は「何これ?」と思っていた固有値が、こんなところでこんなふうに役に立 つとは!(多数)
 役に立つからこそ、そのための数学が進歩したんです。だから皆さんも1年 の時に線型代数を勉強したわけだし。

 今日の感想のほとんどは、上の二つだった(^_^;)。

 行列って便利ですが、誰が考えたのでしょう??
 う・・・・私もよくは知りません。

の逆行列が自分自身になったのは偶然ですか?

 偶然です。ちょっと例としては適切じゃなかったですね。

 二つのばねの運動方程式は一見難しそうだけど、簡単に書けるようになって面白い。運動方程式 を立てるまでは物理だけど、その後の計算は数遊びみたいだっ た。
 この計算を楽しめるようになればしめたもんです。ややこしそうな問題も楽 に思えてくるはずです。

 時々、アプレットの振動を見ていると酔いそうになります。
 うーん、なんか酔わないようにする手はないもんかな。

  (3.3)+(3.4)を足したり引い たりしたおは、振動の向きがわかっているからですか?
 はい。答えがわかっているのでそれを使いました。もっと複雑な場合では単 に足したり引いたりしたのでは正しい答えにたどり着けません。

 足したり引いたりで対称・反対称の打ち消しを行っているという考えは新鮮だった。
 ややこしい運 動の中から、いかにして簡単な部分を引っ張り出すか、というのが大事なところです。

 新しい変数X,Yに1/√2をかけていましたが、あれをかけないと大変になるんですか?
 たいへんというほどではありませんが、少し面倒が増えます。あれで何がど う楽になるかは、来週ちゃんと話せると思います。


File translated from TEX by TTHgold, version 3.63.
On 20 Nov 2006, 10:14.