波動論2006年度講義

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レポートについて【重要】

 11月17日(金)までに、第1章の章末演習問題1-4を解いて、理 307の前野の部屋まで持ってきて、黒板で解いて見せてください。これは評価の一部となります。〆切を過ぎると減点します。

 注意!!:レポートを出すだけではダメです。かならず黒板で説明をして、質問を受 けること。

第2章 減衰振動、強制振動

 この章もウォーミングアップの続きである。単振動は、「フックの法則に従う力だけが働く(たとえば空気抵抗などは考えない)」という理想 化された状況で起こる振動であった。ここでは少し状況を現実に近づけてみよう。

この章で学ぶ大事なこと

2.1  減衰振動

  ばね振り子を考える。ただし、いつも前提として置く「空気の抵抗を無視して」を今回はとっぱらって、空気の抵抗をちゃんと計算にいれてみよう。空気の抵抗 がどんな式になるかはいろんな考え方があるが、ここでは速度[dx/dt]に比例するとしよう。その比例定数をKで表すと、運動方程式は
m d2 x
dt2
= −kx − K dx
dt

(2.1)
となる。K[dx/dt]の前にマイナスがついているのは、その時持っている速度とは逆向きに働くこと(つまり「抵抗」であること)を示している。これを 解くには、定数係数の線型同次微分方程式の一般的解法を使うのがよさそうである。すなわち、x = Aeλtと置くことにより、
2 Aeλt = −kA eλt − K λA eλt
(2.2)
という式が作られる。これから、
2 + Kλ+k = 0
(2.3)
を解いてλを求めましょう、という問題になる。これは2次方程式であるから解の公式を使って、
λ =
−K±
  ______
K2 −4mk
 

2m

(2.4)
となる。判別式(ルートの中身)K2−4mkの符号によって、解の様子はだいぶ変わってくる。
[K2−4mk > 0の時]

λには二つの解が出るが、どっちも実数である。λ1=[(−K+ √[(K2 −4mk)])/2m]とλ2=[(−K− √[(K2 −4mk)])/2m]になる。このλ12はどちらも負なので、t が大きくなると0 に近づく解である。ので、一般解は
x = C1 e−([(K−√[(K2−4mk)])/2m])t+C2 e−([(K+√[(K2−4mk)])/2m])t
(2.5)
となる。
 この運動が起こる条件を考えてみると、K2−4mk > 0となるのは、「Kが大きい(すなわち、摩擦による抵抗が大きい。ねば〜〜〜〜っとした液体の中で物体が振動しているところを思い浮かべるべし)」あるい は「mが小さい(つまり、軽い。軽いがゆえに抵抗力の影響を受ける。紙切れが空気中では落ちるのが遅いのと同じ)」または「kが小さい(つまり、ばねによ る復元力が小さい)」ということになる。どの場合でも振動が起こらなくなりそうだ、と実感できるだろう。
K2−4mk < 0の時

こうなる時というのはKが小さい時。つまり抵抗があまりかからなくて、振動に対するじゃまが少ない時である。じゃまが少ないので振動は起こるが、抵抗のせ いで少しずつ振幅が減っていく。この運動を「減衰振動(dumped oscillation)」と言う。ここで「減衰(dump)」は振幅がe−Ktに比例して小さくなっていくことを示している。こ れを数式で確認しよう。
この時も二つ解が出るが、ともに複素数である。λ1=[(−K +i√[(4mk−K2)])/2m]とλ2=[(−K −i √[(4mk−K2)])/2m]と置こう。一般解は
x = C e−([(K−i√[(4mk−K2)])/2m])t+D e−([(K+i√[(4mk−K2)])/2m])t
(2.6)
xは実数であるから、D=C*なので、C=A/2e,D=A/2e−iαと おいて、
x = A
2
e−[K/2m]t(ei([(√[(4mk−K2)])/2m]t+α)+e−i([(√[(4mk−K2)])/2m]t+α)) = A e−[K/2m]tcos (

  ______
4mk−K2

2m
t+α )
(2.7)
と書き直せる。この振動は、振幅がA e−Ktのように時間が経つと小さくなっていく単振動だと考えることができるだろう。
その単振動の角振動数は[(√[(4mk−K2)])/2m]である。K=0ならば、これはちょうど√[k/m]となって、普通の単振動と同じである24。Kvという抵抗力があるおかげで角 振動数が小さくなっている(=周期が長くなっている)ことがわかる。抵抗があれば振動が遅くなるというのは物理的にももっともなことである。
(テキストでk/mのところがm/kとなってました。直しておいてくださ い)
この運動が起こる条件を考えてみると、K2−4mk < 0となるのは、「Kが小さい(すなわち、摩擦による抵抗が小さい)」あるいは「mが大きい(つまり、重い。重いがゆえに抵抗力の影響を受けにくい。鉄球が 空気抵抗をものともせずどすんと落ちるのと同じ)」または「kが大きい(つまり、ばねによる復元力が大きい)」ということになる。どの場合でも振動が起こ りそうだ、と実感できるだろう。
K2−4mk=0の時

上の二つの場合のちょうど境界に対応する。運動自体はこの時、(2.4)の解は一つx=C e−[K/2m]tしかない。しかし、すでに述べたように、二階微分方程式である(2.1) の解は独立なものが二つあるはずである。
(2.4)を見ると、K2−4mk=0の時はλ = −[K/2m] という解しかない。これはつまり、元々の運動方程式が

( d
dt
+ K
2m
) 2

 
x=0
(2.8)
という形になるということである(上の式を展開してK2=4mkを使えば、(2.1) に戻ることはすぐに確かめられる)。この方程式の解はまずe−[K/2m]tであるが、実はこの方程式は上の式の([d/dt]+ [K/2m])2を([d/dt]+[K/2m])に変えた方程式

( d
dt
+ K
2m
) x=0
(2.9)
の解である。(2.9)の解なら(2.8)の解なのは当然である。し かし、(2.8)の解はこれだけではなくもう一つ、 t e−[K/2m]t がある。

 そのtはどっから出てきたんですか?
 下で説明してあるように、
( d
dt
+ K
2m
) X= e−[K/2m]t

という方程式を解いてXを求めたら、答えがこれだった、ということです。

 確認しよう。t e−[K/2m]t に[d/dt]+[K/2m]を一回かけると、

( d
dt
+ K
2m
) te−[K/2m]t = e−[K/2m]t
(2.10)
となる。これにもう一回[d/dt]+[K/2m]を一回かける0になる。


よって一般解はこの二つの和で表現され、
(at+b) e−[K/2m]t
(2.11)
ということになる(a,bは初期条件から決まる定数)。この運動は「臨界減衰」とか「臨界制動」とか呼ばれる。過減衰の場合 同様、振動は起きていない。過減衰と減衰振動の、ちょうど境目(臨界)にある運動なのである。



 例によって、減衰振動のアニメーションを見せました。

2.2  強制振動

  前節は抵抗が働く場合(つまりエネルギーがロスする場合)であったが、今度は逆にエネルギーが外部から注ぎ込まれる場合(つまり、外部から力を加えて振動 を起こさせる場合)を考えよう。

 ここでは、運動はx方向だけに起こるとして考えている。

 つまり、振り子を手で揺らしているような場合である。解くべき方程式は
m d2 x(t)
dt2
= −kx(t)+Fcosωt
(2.12)
である。しかし、最後の項を複素化した
m d2 x(t)
dt2
= −kx(t)+Feiωt
(2.13)
を解く方が簡単である。この方程式の解を作った後で、x(t)(解は一般に複素数となる)の実数部分だけを取り出せば求めたい解になる。

2.2.1  線型非同次方程式の解き方

(13)は、線型ではあるが非同次である(つまり、x(t)の0次の項Feiωtを 含んでいる)。このような方程式の解き方の一つとして、(2.13)を満たす関数をとにかく一個見つけ てき て方程式を同時方程式に書き換えるという方法ある。以下、(2.13)を例にして、その方法を説明しよ う。
まず、
m d2 X(t)
dt2
= −kX(t)+Feiωt
(2.14)
を満たす関数X(t)を見つける。実は一つ解を見つけるならば簡単である。「Feiωtの部分は角振動数ωで振動しているのだか ら、X(t)もそうだろう」と推測して、X(t)=Aeiωtとしてみよう。代入すると、
m d2
dt2
(Aeiωt) = −kA eiωt+Feiωt
(2.15)
という式ができるが、例によって微分した後でeiωtで割ってから計算していくと、

−ω2 mA=
−kA +F
↓(−kAを移項)
(k−mω2)A=
F
↓(k−mω2で 割る)
A=

F
k−mω2


(2.16)
となるので、解は
X(t)= F
k−ω2
eiωt
(2.17)
となった。
ここで、「ああ解が見つかった」と安心してはいけない。二階微分方程式を解いたのであるから、解は未定のパラメータを二つ含まなくてはならない。ところ が、上の解には決まってないパラメータが一つもない。つまり、求めるべき解は「2個のパラメータで表現されるたくさんの解(一般解)」なのに、たった一つ の解だけを求めたことになる。その意味でこのような一つの解を「特解」と呼ぶ。これではたくさんの解のうち、たった一つを求めただけであっ て、「解が見つかった」とはまだ言えないのである。

なぜ運動方程式の解は二つのパラメータを含まなくていけないか

 この事の物理的理由を説明しておく。今考えているのは物体の運動であるから、
  1. 最初にどこにいるか(初期位置)
  2. 最初どんな速度を持っているか(初速度)
に応じていろいろな運動が起こらなくてはいけない。同じ方程式を満たしてもいても、初期位置と初速度が変化する分だけ「解のバリエーション」がなくてはい けないのである。
つまり、運動方程式の解は常に2個の「運動方程式では決定できないパラメータ」を持つ。ただし、平面上なら座標が二つなのでパラメータの数は4になるし、 3次元なら6になる。



 そこで、特解を一つ見つけた後で、一般解を求める方法を説明しよう。x(t)=y(t)+X(t)とおくと、
m d2
dt2
(y(t)+X(t)) = −k(y(t)+X(t))+Feiωt
(2.18)
という式ができる。ここで、アンダーラインの部分はその部分だけでも式が成立する。したがってアンダーラインしてない部分を見ると、y(t)が満たすべき 方程式は
m d2 y(t)
dt2
= −ky(t)
(2.19)
とわかる。(2.18)は(2.14)と(2.19)を辺々足した形になっていることに注意しよう。
 これで、解くべき方程式は線型同次である(2.19)になった。これを通常の方法で解けば、二個のパラメー タを含んだ解が得られる。つまり、非同次方程式の特解と同時方程式の一般解を足せば、非同次方程式の一般解が得られるのである。

2.2.2  共振・共鳴

(2.19)の解はもはやおなじみの
y(t)=C e0 t+C* e−iω0 t     (ω0=  

k
m
 
)
(2.20)
である。CeiωtとC*e−iωtは、実部を見れば同じものである。どうせ後で実 部だけを取り出して解とするので、C* e−iωt の方は解として採用する必要はない。よって一般解は、
x(t)=C e0 t+ F
k−mω2
eiωt
(2.21)
となった。ほんとうの解はさらにこの実部をとって、
x(t)=C′cos(ω0 t+α)+ F
k−mω2
cosωt
(2.22)
ということになる(ただし、C=C′eとして、C′は実数とした)。なお、k=m(ω0)2で あることを使うと、
x(t)=C′cos(ω0 t+α)+ F
m((ω0)2 − ω2)
cosωt
(2.23)
となる。つまり、外からかかる力の角振動数ωと、強制力がなかった時に起こる単振動の角振動数ω0の各々の自乗の差が振動の振幅に 効いてくることになる。強制力がない場合の振動を「固有振動」と呼び、その振動数、角振動数を固有振動、固有角振動数と呼ぶ。
 上の式からわかるように、ωがω0に近い時(強制振動の振動数が固有振動数に近い時)、振動の振幅は非常に大きくなる。このよう な現象を「共振」または「共鳴25と 言う(英語ではresonance)。

 強制振動のアニメーション プログラムを見せて、今週は終わりました。

 以下、具体的に境界条件を置いて解を求めたり、共振・共鳴の具体例を学ぶ が、それはまた来週。



Footnotes:

24(2.7)でK=0とおけば、普通の単振動の式x=Acos(√{[k/m]}t+α)が出てくる。
25「共振」は物体の 振動の場合に、「共鳴」は音の場合によく使われるが、明確な区別はない。


学生の感想・コメントから

 実際の物理的問題だと解を探すのがたいへんそう。
 残念ながら、現実的な問題になると、ある程度近似しないとまず解けませ ん。

 解を見つける時のひらめきは、経験をつめばわかってきますか?
 ひとつは、経験。
 もう一つは、試行錯誤です。とにかく試しにいろいろやってみることが大 事。

  x = C e−([(K−i√[(4mk−K2)])/2m])t+D e−([(K+i√[(4mk−K2)])/2m])t で、D=C*の意味がわか りません。

 xは実数でなくてはいけないので、複素共役をとったら下にもどらなくては いけません。このxの複素共役を取ると、

 x* = C* e−([(K+i√[(4mk−K2)])/2m])t+D* e−([(K-i√[(4mk−K2)])/2m])t
となります。下の式と見比べると、D=C*つまりC=D*になっていれば、x=x*だ とわかります。

 方程式を求め るとき、特解を求めましたが、これは多くあるうちの一つの解だというのに、x(t)=X(t)+y(t)と一般解に組み込んでもいいものな のかどうか少し疑問に感じました。
 いいのです。元の非同次方程式の解は、二つのパラメータを含んでいなくて はいけません。X(t)+y(t)としたことで、y(t)に二つのパラメータが 含まれているので、これで非同次方程式の解としては全てを尽くしていることになります。別の特解X'(t)が見つかったとすると、今度はX'(t)+y' (t)のように考えることになりますが、このy'(t)は同次方程式の一般解になり、やはり二つのパラメータを含んでいます。
 y(t)とy'(t)は、どちらも同じ方程式を満足することになります (違いはパラメータの差だけ)。

 (2.13)で、 −kx (t)+Fcosωtから = −kx(t)+Feiωtに 変わったところがわかりませんでした。
 そういう時はその場で、質問してくださいね。
 これは、まずはx(t)(ほんとは実数)を複素数だとして解いて、最後に その実数部分を取り出して解とする、というテクニックを使っているからです。 cosωtよりもeiωtの方が微分や積分がやりやすいので、計算が楽になります。最後の最後で「今もとめたx (t)は複素数です が、実数部分だけが本物です」と宣言して虚数部分を捨てれば、−kx(t)+Fcosωtの場合の解になります(計算の途中で、実数部分と虚数部分はずっ と独立で混ざり合わないので、こういう計算ができます)。

 昨日テレビで 振り子の振動が無重力ではどうなるかという実験をしてましたが、無重力だとずっと同じ方向に回ってました。あれで正しいのですか?
 正しいです。無重力では振り子には復元力になるものが働きませんから、 ずっと一定方向に回り続けます。

 自分の場合、特解を見つけたら安心してしまいそうです。しっかり確認してから答を出すよう注 意します。
 そうですね。ついうっかり「解けた!」と喜んでしまいがちですが、何事も 慎重に。

 (2.17)式で eiωtがかかっているのはなぜで すか???
 もともと、X(t)=Aeiωtと置いて計算を初めて、(2.16)でA=F/(k- mω2)と求まったからです。

( d
dt
+ K
2m
) te−[K/2m]t
の計算式を書いてください。

 まず、
d
dt
(te−[K/2m]t )


K
2m

te−[K/2m]t
にわけて、微分の方を計算すると、この微分がtにかかるものとe−[K/2m]tにかかるものにわかれて、



e−[K/2m]tー[K/2m] t e−[K/2m]t


となる。この後ろの項は最初からあった
K
2m

te−[K/2m]t

とキャンセルするので、残るのはe−[K/2m]tだけ。

 プロジェクターの映像って面白い。先生、作った後いろいろいじって遊ぶでしょ う。
 もちろん、遊んでます。なかなか楽しい。

 演習問題の解答は毎回提出期間が終わった後ぐらいにくばって欲しいです。
 その気持ちはわかるけど、提出期限通りに出さない人がたくさんいるから なぁ。

 朝の元気の秘密はなんですか?
 いや、私は今日の自分は元気が足りないと思ってますが。

 ωとω0が近いっていうのは、どういう外力を加えればいいのですか?
 振動の周期に合わせて、同じ周期で押したり引いたりしてあげればいいので す。子供が座っているブランコを押してあげていると考えてください。ブランコの動きに合わせて押してあげると、どんどんブランコの揺れる幅は大きくなりま す。

 臨界減衰の時の解の求め方で、定数変化法っていうのを見たことがあります。どうして定数を変 化させると解が出るのか知りたかったのだけど、今日の話でなんとなくわかったような気になりました。
 定数変化ってのは、まず解としてx(t)=Ae-λtという解を得たわけなので、「もう一つの解も似たようなものになるはず」と考えて

x(t)=A(t)e-λt

と書き直して、今度はA(t)を求めていく、という方法です。今日はこの方 法使いませんでしたが、やってみるといいと思います。

 線型非同次の場合でも解の重ね合わせの原理は使えるんですか?

 (非同次方程式の解)+(同次方程式の解)

という重ね合わせをすると、それは非同次方程式の解となります。

 (非同次方程式の解)+(非同次方程式の解)

という重ね合わせは、解になりません。これは方程式に代入してみると、すぐ わかると思います。

 抵抗力が速度 の自乗に比例する場合もあるようですが、これは比例する場合とどう違うのですか?
 粘性(ねばりけ)が原因となる摩擦抵抗は速度に比例し、回りにある物体 (水とか空気とか)を押しのけることによる抵抗は速度の自乗に比例します。実際の問題では両方が働くことが多いですが、どっちが強く効くかは場合によりま す。今日は簡単のため(速度の自乗に比例する力が入ると方程式が非線型になるため)、速度に比例する力だけを入れました。


File translated from TEX by TTHgold, version 3.63.
On 6 Nov 2006, 10:40.