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★2008年5月29日(木) 14:40−15:40

場 所: 理学部313教室

講演者: 稲岡 毅 先生

      (琉球大学 理学部 物質地球科学科)

講演題名:「半導体吸着制御表面の素励起」

講演概要:

吸着の被覆度の増加とともに、不純物半導体表面にキャリア涸渇層 あるいは蓄積層が形成されていく例、 すなわち吸着により表面空間電荷層が制御できる例がいくつか知ら れている。このような吸着による著 しい表面電子状態の変化は、表面励起に如実に反映される。n型 GaAs、n型InSbのような化合物半導体で は、しばしばキャリア系の表面プラズモンと表面極性フォノンが結 合する。このような表面素励起は、 高分解能電子エネルギー損失分光(HREELS)により測定される。 キャリア系の表面プラズモンと表面極性フォノンが結合して生ずる 2つの結合モードA、Bと、キャリア 系に由来する遮蔽電荷を伴う表面極性フォノンモードCの3つが存 在することが分かる。本講演では、 「涸渇層」形成過程における各表面励起モードのエネルギー分散、 エネルギー損失強度、空間構造、 プラズモンとフォノンの結合形態の変化を追跡する。モードAある いはBでは、初期の上向き分散曲線 が低エネルギー側にシフトすると同時に、下にトツの反り形の分散 曲線に変わる。誘起電荷密度分布の 等高線から、涸渇層形成過程におけるモードAあるいはBの空間構 造の著しい変化が分かる。モードC では、フォノンが誘起電荷を引きずりながら伝播する様相と遮蔽電 荷密度分布の変化が明らかになる。 本解析は、HREELSのスペクトルに現れる損失ピークのシフト や強度変化を明瞭に説明する。

★2008年6月26日(木) 14:40−15:40

場 所: 理学部313教室

講演者: 和田裕文 先生

      (九州大学理学研究院物理学部門)

講演題名:「一次転移を示す磁性体の巨大磁気熱量効果」

講演概要:

磁性体のエントロピーや温度が磁場によって変化する性質を磁気熱量 効果という.磁 気冷凍は磁気熱量効果を用いた冷凍法で,近 年システムの進歩によって,実用化への 見通しが得られるよ うになってきた.このため,大きな磁気熱量効果を示す物質の 開発が世界中で精力的に行われている.われわれはこれまで 一次転移を示す物質が巨大 磁気熱量効果を示すことを報告し てきた.この講演では,さまざまな一次転移物質に ついて, 圧力下も含めた磁気熱量効果を紹介する.

★2008年8月11日(月) 14:40−15:40

場 所: 理学部313教室

講演者: Prof. Eric Gourgoulhon(CNRS,パリ天文台)

講演題名:「Black holes and gravitational waves: general relativity at works」

講演概要:

Black holes and gravitational waves are both outcomes of Einstein's theory of general relativity. This talk will discuss their theoretical properties, the current observational status and the prospects of observations by gravitational wave detectors.

★2008年10月3日(金) 14:40−

場 所: 複 202教室

講演者:高橋 良彰 先生 (九州大学)

講演題名: 「天然高分子の溶液及びゲルの性質」--セルロースのイオン液体溶液を中心に--

内容:

新しい溶媒であるイオン液体の性質と,そのセルロース溶液の 溶液性状を中心に,天然高分子の物理ゲルの弾性率評価と 均一性について,最近の成果を紹介する。

★2008年11月14日(金)16:20−17:20

場 所: 理学部313教室

講演者: 高江洲義尚(琉球大学理学部物理系 磁性体研究室)

講演題名:「希土類ラーベス相化合物Y1-xRxCo2(R=Gd, Tb, Dy, Ho, Er)の磁気配列喪失組成周辺の異常伝導現象の研究」

講演概要:

 希土類ラーベス相(C15型)化合物Y1-xRxCo2(R=Gd, Tb, Dy, Ho,Er)の磁気配列喪失組成近傍の残留抵抗が,平均場近似で予想される抵抗の組成依存と大きく異なる異常な振る舞いをすることに注目しその原因を探求した.

 RをYで置換してフェリ磁性転移温度(Tc)が消失する近傍の輸送特性(電気抵抗率と熱電能)を温度2-300K,磁場0-15T および圧力0-8GPaを加えて濃度,磁場および圧力の効果を詳細に測定し異常伝導現象の原因は,平均場近似でなく微視的な観点を導入してモデルをたて,そのモデルの正しさを濃度,磁場および圧力依存により確かめた.そして濃度,磁場および圧力それぞれの間の関係も実験的理論的に確かめた.

2008年12月12日(金)16:20-17:20

場 所: 理学部313教室

講演者: 阿曽 尚文 先生(琉球大学理学部物質地球科学科物理系)

講演題名:{\rm UPd}_2{\rm Al}_3の磁性と伝導〜中性子散乱研究」

講演概要:

 1979年にStegrichらにより重い電子系{\rm CeCu}_2{\rm Si}_2 において超伝導が発見されて以来,従来のs波超伝導体とは異 なる対称性をもついわゆる異方的超伝導体が重い電子系化合物,酸 化物,有機物など幅広い物質群で発見され,その新奇な超伝導状態 をめぐって多くの研究が精力的になされてきた.

 1991年に同じくStegrichらにより発見された {\rm UPd}_2{\rm Al}_3は反強磁性と超伝導が共存する物質として興味をもたれ、磁 性が超伝導の形成に重要な役割を果たしていると考えられた。そこ で我々は、{\rm UPd}_2{\rm Al}_3の磁気励起に注目し中性子散乱による研究 を進めてきた。中性子散乱は磁気励起の波数及びエネルギー依存性 を直接観測できる非常に強力な実験手段である.

 講演では,重い電子系超伝導体{\rm UPd}_2{\rm Al}_3の物性の基本的な所 から紹介し,私たちの中性子散乱研究結果について報告する。それ らをもとにウラン化合物の磁気励起の特徴、及び超伝導の対称性等 について議論したい.講演の後半では、私が琉球大学理学部で今後 やりたいと考えていることなどを簡単に述べたい。

★2008年12月16日(火) 16:20−18:20

講演会 「J-PARCへの招待」

場所:琉球大学理系複合棟102室

主催:高エネルギー加速器研究機構、琉球大学理学部

後援:沖縄県教育委員会

講演:

(1)J-PARCにおけるニュートリノ振動実験

高エネルギー加速器研究機構  多田 将

ニュートリノという素粒子は、専門の方々でなくとも名前だけはよく耳にするのに、では実際にはいったい何かというと、よく判らなかったりします。でも実はニュートリノについてよく判らないのは我々専門の物理学者もそうであって、"質量があるかないか"という一番基本的なことすらも、数年前に確定されたばかりなのです。そこで、その性質を詳しく調べよう、というのが今回御紹介する実験の目的です。

この長基線ニュートリノ振動実験(T2K実験)は、茨城県東海村から岐阜県神岡町へとニュートリノビームを打ち込む、地球を実験室として用いた壮大なスケールの実験です。

飛行距離、300km。

東海村から発射するニュートリノ数、毎秒1000兆個。

神岡町に置かれた検出器の質量、5万トン。

この実験で、ニュートリノの謎、ひいては、宇宙創成や物質の起源の謎を解明します。 世界最強の加速器から発生する世界最強のニュートリノビームを用いた実験が、まさに今、この日本で開始されようとしています。いよいよ稼動直前のこの実験と実験装置の現状を、判り易く御説明致します。

(2)中性子科学への招待

東北大学/高エネルギー加速器研究機構  遠藤康夫

物質科学の最前線の基礎研究は構成原子、イオン、分子が織りなす構造の顕微から始まる。近年、単に静止した構造だけではなく、動的な構造を知る事が必須であり、また動きの速さに依って異なる構造も重要視されている。利用する熱中性子の波長はイオン半径と同程度であり、そのエネルギーも名前の通り室温に相当することからミクロ構造顕微の最適なプローブである。電荷の無い中性子は物質の奥深くに入って原子核や電子スピンに依って散乱するので散乱や回折現象から物質構造を顕微する事が出来る。

JPARCでは高速に加速された陽子が重金属に衝突して発生する中性子を用いた中性子科学実験を行うが、広いエネルギー範囲に亘って大強度の中性子パルスが利用出来る特徴を活かした研究が計画されている。講義では、中性子の特性から初めて、どのような物質構造研究が出来るかを解説すると共に、このパルス中性子研究が日本から始まった歴史も振り返る。

(3)ミュオン科学への招待

永嶺謙忠(高エネルギー加速器研究機構・東大名誉教授)

 素粒子ミュオンは、電荷が正と負の2種類あり、質量が陽子の1/9(電子の200倍)で、電気的な力で周りの物質と相互作用します。ミュオンは、J-PARCの様な加速器で作られる他、宇宙線として我々の上からも手のひらに毎秒1個の割合で降り注いでいます。

 宇宙線ミュオンはエネルギーが高く透過性が良いので、数100mの岩山や数10mの鉄を透過することができます。宇宙線ミュオンの高い透過性を利用して、火山や地殻の内部や、稼動している製鉄用溶鉱炉の内部状態を調べることができます。

 一方,加速器で作られる高強度の軽い陽子の性質を持つ正ミュオンを物質中に止めると、原子レベルの磁気センサーとして物質や生命の未知の性質を明らかにします。また重い電子負ミュオンは二つの原子核を引き寄せ核融合を起こすことができます。

 身近な素粒子ミュオンが開く新しい科学の世界を易しく紹介します。

★2008年12月19日(金)16:20−17:20

場 所: 理学部313教室

講演者: 野津史耕(琉球大学理学部物理系 磁性体研究室)

講演題名:{\rm CuIr}_2{\rm S}_4の金属-絶縁体転移と伝導のメカニズム」

講演概要:

カルコゲナイド銅スピネル化合物{\rm CuIr}_2{\rm S}_4は約230Kで電気抵抗が4桁ほど変化する金属-絶縁体転移を起こす。低温の絶縁体相での伝導は一見すると普通の半導体のよう だが、磁化率が温度依存せず負であるので熱励起されたキャリアによるものではなく、またX線を照射すると伝導度が数時間の緩和時間をもって回復するなど、特異な性質を持っている。本研究ではこの化合物のM-I転移と伝導のメカニズムについて興味を持ち、{\rm CuIr}_2{\rm S}_4の電気抵抗率と熱電能を1.5〜900Kの温度範囲で、また、電流-電圧特性(I-V特性)を30〜300Kの温度範囲で測定した。最近の放射光による構造解析で、230K以下ではIrがダイマーを形成することがわかっているが、本研究では低温絶縁相での伝導機構として、このダイマーが電場により次々に相手を変え、その結果電荷の移動が起こるという新しい伝導モデルを提案する。

★2008年1月8日(木) 14:40−16:10

場 所: 理学部313教室

講演者: 江里口良治(東京大学大学院総合文化研究科)

講演題名: 一様回転星の新しい動的不安定性とパルサーの最短周期への適用

講演概要:

 回転星の動的不安定性に関しての研究から、非一様回転星では不 安定化しやすいことが最近わかってきたが、一様回転星にも新しい 動的不安定性があることが最近の数値計算で見出されてきている。 この不安定性は、回転している場合に可能となる振動モード(慣性 モードという)が不安定化したものと考えられ、高速回転星だけで なく遅い一様回転星でも不安定化する。

 一方、回転中性子星の観測的な最短周期は 1.4ミリ秒で、一様回 転中性子星の理論的最短周期である0.5-0.6ミリ秒の3倍ほど遅い。 理論的最短周期のパルサーが発見されない理由の一つとしては、回 転星が不安定化して角運動量を失うためではないかと考えられてき たが、f-モード(固有関数にノードがない基本振動)や r-モード (回転物体でのコリオリ力を復元力とする振動:地球物理のロスビ ー波的振動と同種類)が重力波を放出することによる不安定化では 説明できないとされてきていた。それに対し、今回見出された一様 回転星の動的不安定性は、回転があれば起こる不安定で、高速一様 回転している場合の不安定性の成長時間は、回転周期の数倍〜数十 倍程度で短い。この不安定性が一様回転する中性子星の回転に制限 を与え、それがパルサーの観測的最短周期に結び付く可能性につい て議論する。

★2009年3月16日(月)13:00 - 14:00

場 所: 理学部313教室

講演者: 藤堂 眞治 先生(東京大学大学院工学系研究科)

講演題名:「長距離相互作用系に対するオーダーNモンテカルロ法とその応用」

講演概要:

磁気双極子系などの長距離相互作用を持つスピン系では, その長距離性に由来する強い境界の効果, 新しい相転移のユニバーサリティークラス,複雑なフラストレーションによる新奇な秩序構造など, 短距離相互作用のみを持つ系とは全く異なった様々な興味深い現象が見い出されている. しかしながら, このような系においては, 系のスピン数Nに対してスピン間の相互作用の項の数がN^2に比例して急激に増加するため, これまで大規模な系の詳細なシミュレーションは困難であった. 最近我々は長距離相互作用系に対する効率的なモンテカルロ法を提案した. この方法はスピン変数に加えボンド上にも非負の整数を割り合てる「拡張Fourtuin-Kasteleyn表現」に基づいており,全系のスピン配位をオーダーNの時間で更新することが可能である. また, 相互作用レンジに対するカットオフなどの近似を含まず, 詳細釣り合いの条件を厳密に満たしていることも大きな特徴である. 本講演では, この新しいアルゴリズムについて説明した後, Wang-Landau拡張アンサンブル法と組み合わせることにより磁気双極子Ising系の相転移に応用した例を紹介する.


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Last-modified: 2009-04-22 (水) 17:46:18 (5482d)